第2章 - symfony のコードを探求する
symfony で作られたアプリケーションのコードを見ると(その複雑さに)やる気をくじかれてしまうかもしれません。symfony は多くのディレクトリとスクリプトによって構成され、 PHP クラスファイルと HTML ファイルが混在しており、ファイルによってはそれら両方が含まれるものもあります。参照するクラスがアプリケーションのフォルダーには見つからなかったり、ディレクトリの深さが6レベルに達するものもあります。しかし、なぜこのような複雑な作りになっているかを1度理解してしまえば、symfony のアプリケーション構造がごく自然であり、これを別のものに置き換えたいとは思わなくなるでしょう。この章にてそれらの説明を行います。
MVC パターン
symfony はWebの代表的なデザインパターンとして知られるMVC アーキテクチャ(Model-View-Controller)に基づいています。MVCアーキテクチャは次の3つで構成されます:
- モデル(Model)はアプリケーションが処理する情報(ビジネスロジック)を表します。
- ビュー(View)はモデルの情報をWebページにレンダリングするための機能を提供します。
- コントローラー(Controller)はユーザーのアクションを受け取り、モデルやビューの変更を適切に行います。
図2-1は MVC パターンを図に示したものです。
MVC アーキテクチャはビジネスロジック (モデル) とプレゼンテーションを分離するので、結果として維持管理しやすくなります。たとえば、アプリケーションが標準的なWebブラウザーと携帯端末の両方で動く場合、新しいビューだけが必要です; オリジナルのコントローラーとモデルはそのままにできます。コントローラーはモデルとビューからリクエスト (HTTP、コンソールモード、メールなど) のために使われるプロトコルの詳細を隠すための助けを行います。そしてモデルはデータのロジックの抽象化を行い、ビューとアクションを、たとえば、アプリケーションによって使われるデータベースの種類から独立したものにします。
図2-1 - MVC パターン
MVC 階層化
MVCの利点を理解するために、PHP の基本アプリケーションを MVC アーキテクチャのアプリケーションに改造する方法を見てみましょう。blog アプリケーションにおける投稿の一覧を表示する機能が完璧な例です。
ベタ書きのプログラミング
ベタ書きの PHP ファイル (flat PHP file) において、データベースのエントリーの一覧表示機能はリスト2-1のようなスクリプトになります。
リスト2-1 - ベタ書きのスクリプト
<?php //データベースに接続、選択する $link = mysql_connect('localhost', 'myuser', 'mypassword'); mysql_select_db('blog_db', $link); // SQLクエリを実行する $result = mysql_query('SELECT date, title FROM post', $link); ?> <html> <head> <title>投稿の一覧</title> </head> <body> <h1>投稿の一覧</h1> <table> <tr><th>日付</th><th>タイトル</th></tr> <?php // 結果をHTML形式で出力する while ($row = mysql_fetch_array($result, MYSQL_ASSOC)) { echo "\t<tr>\n"; printf("\t\t<td> %s </td>\n", $row['date']); printf("\t\t<td> %s </td>\n", $row['title']); echo "\t</tr>\n"; } ?> </table> </body> </html> <?php // 接続を閉じる mysql_close($link); ?>
速く書けてすぐに実行できますが、維持するのは不可能です。このコードの重大な問題はつぎのとおりです:
- エラーのチェック機能が存在しない (データベースの接続が失敗したらどうする?)
- HTML と PHP のコードが混在している。
- コードが MySQL データベースに直結している
プレゼンテーションを分離する
リスト2-1の echo
と printf
の呼び出しがコードを読みづらくしています。現在の構文ではプレゼンテーションを強化するために HTML コードを修正する作業は骨が折れます。ですのでコードを2つの部分に分割する方法を採用することにします。最初に、リスト2-2で示すように、ビジネスロジックをともなう純粋な PHP コードをコントローラースクリプトに移動させます。
リスト2-2 - コントローラー部分を表す index.php
<?php // データベースに接続、選択する $link = mysql_connect('localhost', 'myuser', 'mypassword'); mysql_select_db('blog_db', $link); // SQL クエリを実行する $result = mysql_query('SELECT date, title FROM post', $link); // ビューのために配列を充填する $posts = array(); while ($row = mysql_fetch_array($result, MYSQL_ASSOC)) { $posts[] = $row; } // 接続を閉じる mysql_close($link); // ビューのスクリプトを読み込む require('view.php');
リスト2-3で示すように、テンプレートのような PHP 構文を含む HTML コードはビューのスクリプトに保存します。
リスト2-3 - ビューの部分を表す view.php
<html> <head> <title>投稿の一覧</title> </head> <body> <h1>投稿の一覧</h1> <table> <tr><th>日付</th><th>タイトル</th></tr> <?php foreach ($posts as $post): ?> <tr> <td><?php echo $post['date'] ?></td> <td><?php echo $post['title'] ?></td> </tr> <?php endforeach; ?> </table> </body> </html>
ビューが十分に明解であるのか判断するためのよい経験則は、PHP の知識のない HTML デザイナーが理解できるように最小量の PHP コードだけが含まれるかです。ビューでもっともよく使われるステートメントは echo
、if/endif
、foreach/endforeach
だけです。また、HTML タグを echo
する PHP コードが存在してはなりません。
すべてのロジックをコントローラースクリプトに移動させます。コントローラー内部には HTML が存在しない純粋な PHP コードだけが存在します。当然のことながら、同じコントローラーが全体的に異なるプレゼンテーション、たとえばPDFファイルもしくは XML 構造のなかで再利用できるようにする方法を考えるべきです。
データの操作機能を分離する
コントローラースクリプトの大部分はデータの操作専用です。しかし、別のコントローラーのために投稿の一覧表示機能が必要な場合、たとえば blog 投稿の RSS フィードを出力するには?コードの重複を避けるために、すべてのデータベースのクエリを一ヶ所に保存したいのであればどうしますか? post
テーブルが weblog_post
にリネームされたのでデータモデルを変更することを決定したらどうしますか?MySQL の代わりに PostgreSQL に切り替えたい場合はどうしますか?これらすべてを実現するには、リスト2-4で示されるように、コントローラーからデータ操作のコードを削除し、モデルと呼ばれる別のスクリプトに設置します。
リスト2-4 - モデルの部分を表す model.php
function getAllPosts() { // データベースに接続し、選択する $link = mysql_connect('localhost', 'myuser', 'mypassword'); mysql_select_db('blog_db', $link); // SQLクエリを実行する $result = mysql_query('SELECT date, title FROM post', $link); // 配列を充填する $posts = array(); while ($row = mysql_fetch_array($result, MYSQL_ASSOC)) { $posts[] = $row; } // 接続を閉じる mysql_close($link); return $posts; }
改訂されたコントローラーはリスト2-5で示されています。
リスト2-5 - 改訂されたコントローラーの部分を表す index.php
<?php // モデルのコードを読み込む require_once('model.php'); // 投稿のリストを読みとる $posts = getAllPosts(); // ビューを読み込む require('view.php');
これでコントローラーは読みやすくなりました。コントローラーの唯一のタスクはモデルからデータを取得してビューに渡すことです。より複雑なアプリケーションにおいて、コントローラーはリクエスト、ユーザーセッション、認証なども扱うことができます。モデルの関数の名前を明確にすることでコントローラーコードのコメントは不要になります。
モデルスクリプトはデータアクセス専用で、それに応じて編成されます。(リクエストパラメーターのような) データレイヤーに依存しないすべてのパラメーターはコントローラーから渡されなければならず、またモデルによって直接アクセスされないようにしなければなりません。モデルの関数は別のコントローラーで簡単に再利用できません。
MVC を超えるレイヤーの分離
MVC アーキテクチャの原則はコードの性質にしたがってコードを3つのレイヤーに分離することです。データロジックのコードはモデルの範囲に、プレゼンテーションのコードはビューの範囲に、アプリケーションのロジックはコントローラーの範囲に設置されます。
デザインパターンを追加することでコードを書く作業が楽になります。モデル、ビュー、コントローラーレイヤーをさらに細かく分割できます。
データベースの抽象化
モデルレイヤーはデータベースアクセスレイヤーとデータベース抽象化レイヤーに分割できます。この方法では、データアクセス関数はデータベースに依存するクエリのステートメントを使いませんが、ほかの関数がそれら自身でクエリを行います。もしあとでデータベースシステムを変更する場合、データベース抽象化レイヤーの更新だけが必要になります。
リスト2-6はデータベース抽象化レイヤーのサンプルで、続くリスト2-7は MySQL 固有のデータアクセスレイヤーの例です。
リスト2-6 - モデルの抽象化データベース部分
<?php function open_connection($host, $user, $password) { return mysql_connect($host, $user, $password); } function close_connection($link) { mysql_close($link); } function query_database($query, $database, $link) { mysql_select_db($database, $link); return mysql_query($query, $link); } function fetch_results($result) { return mysql_fetch_array($result, MYSQL_ASSOC); }
リスト2-7 - モデルのデータアクセス部分
function getAllPosts() { // データベースに接続する $link = open_connection('localhost', 'myuser', 'mypassword'); // SQLクエリを実行する $result = query_database('SELECT date, title FROM post', 'blog_db', $link); // 配列を充填する $posts = array(); while ($row = fetch_results($result)) { $posts[] = $row; } // 接続を閉じる close_connection($link); return $posts; }
(リスト2-7で) データベース依存の関数がデータベースアクセスレイヤーで見つからないことを確認できます。これによって関数はデータベースから独立したものになります。これに加えて、データベースの抽象化レイヤーで作成された関数はデータベースにアクセスする必要があるほかの多くのモデル関数で再利用できます。
リスト2-6とリスト2-7の例はまだ十分に満足のゆくものではなく、データベースを完全に抽象化するための作業が残されています (データベースから独立したクエリビルダーを通して SQL コードを抽象化すること、すべての関数をクラスに移動させることなど)。しかしこの本の目的はすべてのコードを手で書く方法を示すことではなく、8章でsymfonyがネイティブですべての抽象化を上手に行うことを見ることになります。
ビューの要素
ビューレイヤーもコード分離から恩恵を受けます。アプリケーション全体でWebページが永続する要素を持つことはよくあります: たとえばページヘッダー、グラフィカルなレイアウト、フッター、グローバルナビゲーションなどです。ページの一部のみが変わります。ビューがレイアウトとテンプレートに分離される理由はそういうわけです。通常、レイアウトはアプリケーションもしくはページのグループに対してグローバルです。テンプレートにはコントローラーによって利用可能になる変数のみが含まれます。これらのコンポーネントを連携させるために少々のロジックが必要で、このビューロジックのレイヤーはビューの名前を持ちます。リスト2-8、2-9、2-10で示されるように、これらの原則にしたがって、リスト2-3のビューの部分を3つに分割できます。
リスト2-8 - ビューのテンプレート部分 (mytemplate.php
)
<h1>投稿の一覧</h1> <table> <tr><th>日付</th><th>タイトル</th></tr> <?php foreach ($posts as $post): ?> <tr> <td><?php echo $post['date'] ?></td> <td><?php echo $post['title'] ?></td> </tr> <?php endforeach; ?> </table>
リスト2-9 - ビューのロジック部分
<?php $title = '投稿の一覧'; $posts = getAllPosts();
リスト2-10 - ビューのレイアウト部分
<html> <head> <title><?php echo $title ?></title> </head> <body> <?php include('mytemplate.php'); ?> </body> </html>
アクションとフロントコントローラー
前の例ではコントローラーはあまり多くのことを行いませんでしたが、実際のWebアプリケーションでは、コントローラーは多くの仕事を担います。この仕事の重要な部分はアプリケーションのすべてのコントローラーに共通です。共通のタスクにはリクエスト処理、セキュリティ処理、アプリケーション設定の読み込み、および似たような雑用作業が含まれます。コントローラーがフロントコントローラーとアクションによく分割されるのはそういうわけです。フロントコントローラーはアプリケーション全体で唯一のもので、アクションは1つのページに固有のコントローラーコードのみを格納します。
フロントコントローラーの大きな利点の一つはアプリケーション全体で唯一のエントリーポイント(入り口)が提供されることです。アプリケーションを閉鎖することを決定した場合、必要な作業はフロントコントローラーのスクリプトを編集することだけです。フロントコントローラーなしのアプリケーションでは、それぞれのコントローラーをオフに切り替えることが必要です。
オブジェクト指向
以前のすべての例では手続き型のプログラミングの方法を利用しました。現代のプログラミング言語の手法であるオブジェクト指向プログラミング (OOP) の機能によってプログラミングはさらに簡単なものになります。なぜなら、オブジェクトがロジックをカプセル化し、別のオブジェクトから継承し、クリーンな名前の規約を提供できるからです。
MVC アーキテクチャをオブジェクト指向ではない言語で実装すると名前空間の衝突とコードの重複問題が発生し、全体のコードが読みにくくなります。
オブジェクト指向によって開発者はビューオブジェクト、コントローラーオブジェクト、モデルオブジェクトといったものを扱うことが可能で、以前の例のすべての関数はメソッドに翻訳されます。オブジェクト指向は MVC アーキテクチャのための必須の方法です。
オブジェクト指向の文脈で Webアプリケーションのためのデザインパターンについてもっと学びたい場合、Martin Fowler (マーチン・ファウラー)が書いた Patterns of Enterprise Application Architecture (Addison-Wesley, ISBN: 0-32112-742-0 (邦訳は翔泳社より刊行された「エンタープライズ アプリケーションアーキテクチャパターン」)をお読みください。Fowler 本のコードの例は Java もしくは C# ですが、PHP 開発者にも読みやすいです。
symfony による MVC の実装方法
少しお待ちください。blog で投稿の一覧を表示する単独のページに対して、必要なコンポーネントはいくつ存在するでしょうか? 図2-2で説明されているように、つぎのような部品があります:
- モデルレイヤー
- データベースの抽象化
- データアクセス
- ビューレイヤー
- ビュー
- テンプレート
- レイアウト
- コントローラーレイヤー
- フロントコントローラー
- アクション
7つのスクリプト、全体の多くは新しいページを作るたびに開いて修正するファイルです!しかしながら、symfony はこれらの作業を簡単にします。MVC アーキテクチャを最大限活用する一方で、symfony はこのアーキテクチャを早くて苦痛のともなわないアプリケーションの開発方法で実装します。
最初に、アプリケーションのすべてのアクションでフロントコントローラーとレイアウトは共通です。複数のコントローラーとレイアウトを用意するのは可能ですが、必要なものはそれぞれ1つだけです。フロントコントローラーは純粋なMVCロジックのコンポーネントで、symfony が生成してくれるので書く必要はありません。
ほかのよいお知らせは、データ構造に基づいて、モデルレイヤーのクラスも自動的に生成されることです。これは ORM ライブラリの仕事で、クラスのスケルトンとコードの生成方法を提供します。ORM は外部キー制約もしくはデータフィールドを見つけると、データ操作を簡単にする特別なアクセサー (accessor) メソッドとミューテーター (mutator) メソッドを提供します。そしてデータベースの抽象化は全体的に開発者には見えません。PDO (PHP Data Objects) によってネイティブに処理されるからです。データベースエンジンを変更することを決めた場合、リファクタリングする必要のあるコードはゼロです。設定パラメーターを1つ変更することだけが必要です。
そして最後のお知らせは、プログラミングを行わずに、ビューロジックをシンプルな設定ファイルに簡単に翻訳できることです。
図2-2 - symfony のワークフロー
リスト2-11、2-12、2-13で示されるように、このことは私たちの例で説明された投稿の一覧機能を symfony で動かすには3つのファイルだけが必要になることを意味します。
リスト2-11 - list
アクション (myproject/apps/myapp/modules/weblog/actions/actions.class.php
)
<?php class weblogActions extends sfActions { public function executeList() { $this->posts = PostPeer::doSelect(new Criteria()); } }
リスト2-12 - list
テンプレート (myproject/apps/myapp/modules/weblog/templates/listSuccess.php
)
<?php slot('title', '投稿の一覧') ?> <h1>投稿の一覧</h1> <table> <tr><th>日付</th><th>タイトル</th></tr> <?php foreach ($posts as $post): ?> <tr> <td><?php echo $post->getDate() ?></td> <td><?php echo $post->getTitle() ?></td> </tr> <?php endforeach; ?> </table>
加えて、リスト2-13で示されるように、まだ1つのレイアウトを定義する必要がありますが、これは何度も再利用されます。
リスト2-13 - レイアウト (myproject/apps/myapp/templates/layout.php
)
<html> <head> <title><?php include_slot('title') ?></title> </head> <body> <?php echo $sf_content ?> </body> </html>
これが本当に必要なコードのすべてです。これが以前のリスト2-1で示されたベタ書きのスクリプトとまったく同じページを表示するために必要で正しいコードです。(すべてのコンポーネントを連携させる) 残りの部分は symfony によって処理されます。行数を数えると、ベタ書きのファイルで書くよりも symfony による MVC アーキテクチャで投稿の一覧機能を作成するほうが時間がかからないもしくはコードを書く作業が少なくてすむことがわかります。そのことだけでなく、symfony は非常に大きな利点、とりわけきれいなコードの編成、再利用性、柔軟性を提供し、そしてコードを書くのがずっと楽しくなります。おまけに、XHTML の適合性 (conformance)、デバッグ機能、簡単な設定、データベースの抽象化、スマート URL のルーティング、複数の環境、そしてより多くの開発ツールが手に入ります。
symfony のコアクラス
symfony の MVC アーキテクチャはこの本で何度も見ることになるいくつかのクラスを利用します:
sfController
はコントローラークラスです。リクエストを解読してアクションに渡します。sfRequest
はすべてのリクエスト要素 (パラメーター、Cookie、ヘッダーなど) を保存します。sfResponse
はレスポンスヘッダーと内容を格納します。これは最終的に HTML レスポンスに変換されユーザーに送信されるオブジェクトです。- (
sfContext::getInstance()
によって読みとりされる) コンテキスト (context) はすべてのコアオブジェクトと現在の設定への参照を保存します: どこからでもアクセス可能です。
6章でこれらのオブジェクトを詳しく学びます。
ご覧のとおり、symfony のすべてのクラスはプレフィックスとしてsf
を使います。テンプレートのコア変数も同様です。これによってあなた独自のクラスと変数の名前の衝突を回避することが可能で、symfony のコアクラスは親しみやすく認識しやすいものになります。
symfony で利用されているコーディング規約のなかで、UpperCamelCase (アッパーキャメルケース) はクラスと変数の命名に関する規約です。ただし、2つの例外が存在します: symfony のコアクラスは小文字の
sf
で始まり、テンプレートで見つかる変数はアンダースコア (_
) で区切られた構文を使います。
コードの編成
これであなたは symfony アプリケーションの異なるコンポーネントを理解しましたが、これらがどのように編成されるのかおそらく疑問に思っているでしょう。symfony はコードを1つのプロジェクト構造に編成して、プロジェクトファイルを1つの標準ツリー構造に設置します。
プロジェクトの構造: アプリケーション、モデルとアクション
symfony において、プロジェクト (project) とは、同じオブジェクトモデルを共有し、指定ドメインの名前のもとで利用できるサービスとオペレーションの集合です。
プロジェクト内部では、オペレーションはアプリケーションに論理的に分類されます。通常は、アプリケーションは同じプロジェクトのほかのアプリケーションから独立して動作できます。多くの場合、プロジェクトには2つのアプリケーションが収納されます: 1つはフロントオフィス用の、もう1つはバックオフィス用のアプリケーションです。これらは同じデータベースを共有します。しかし、それぞれが異なるアプリケーションである小さなサイトを多く含む1つのプロジェクトを用意することもできます。アプリケーション間のハイパーリンクは絶対パスでなければならないことに注意してください。
それぞれのアプリケーションは1つもしくは複数のモジュールの一式 (セット) です。通常、1つのモジュール (module) は同じ目的を持つ1つのページもしくはページのグループを表します。たとえば、home
、articles
、help
、shoppingCart
、account
モジュールなどを持つことができます
モジュールはアクションを収納します。アクション (action) は1つのモジュールのなかで行うことができるさまざまな行動を表します。たとえば、shoppingCart
モジュールはadd
(追加する)、show
(表示する)、update
(更新する) アクションを持つことができます。一般的にアクションは動詞として記述できます。アクションの扱いかたは古典的なアプリケーションのページの扱いかたとほとんど同じですが、2つのアクションの結果が同じページになることもあります (たとえば、blog でコメントを投稿画面に追加すると新しいコメントが含まれる投稿画面が再表示される)。
プロジェクトを始めるのに際してアクションが多くの内容を表しすぎる場合、すべてのアクションを単独のモジュールにまとめるのはとても簡単です。アプリケーションがより複雑になるとき、複数のアクションを異なるモジュールに分類する時期です。1章で説明したように、(ふるまいを保ちながら) 構造もしくは読みやすさを改善するためにコードを書き直す作業はリファクタリングと呼ばれ、RAD (ラピッドアプリケーション開発) の原則を適用するときに、この作業を多く行います。
図2-3はプロジェクト/アプリケーション/モジュール/アクション構造の blog プロジェクトのコードの編成のサンプルを示します。しかしプロジェクトの実際のファイルツリー構造は図で示されたセットアップと異なることをご了承してください。
図2-3 - コードの編成の例
ファイルのツリー構造
一般的に、すべての Web プロジェクトはつぎのような同じ種類の内容を共有します:
- データベースのファイル。MySQL、PostgreSQLなど
- 静的なファイル (HTML、画像、JavaScript ファイル、スタイルシートなど)
- サイトのユーザーと管理者がアップロードしたファイル
- PHP クラスとライブラリ
- 外部ライブラリ (サードパーティのスクリプト)
- バッチファイル (コマンドラインもしくは cron table で起動するスクリプト)
- ログファイル (アプリケーションかつ/もしくはサーバーによって書かれるトレース)
- 設定ファイル
symfony はアーキテクチャ上の選択 (MVCパターンとプロジェクト/アプリケーション/モジュールの分類) と調和した、論理的な方法でこれらすべての内容を編成するファイルの標準ツリー構造を提供します。すべてのプロジェクト、アプリケーションもしくはモジュールを初期化するときに、このツリー構造は自動的に作成されます。もちろん、あなたの都合にあわせてファイルとディレクトリを再編成する、もしくは顧客の要件を満たすためにこのツリー構造を完全にカスタマイズできます。
root のツリー構造
これらは symfony のプロジェクトの root で見つかるディレクトリです:
apps/
frontend/
backend/
cache/
config/
data/
sql/
doc/
lib/
model/
log/
plugins/
test/
bootstrap/
unit/
functional/
web/
css/
images/
js/
uploads/
テーブル2-1でこれらのディレクトリの内容が説明されています。
テーブル2-1 - ルートディレクトリ
ディレクトリ | 説明 |
---|---|
apps/ |
プロジェクトのアプリケーションごとに1つのディレクトリが収納される (よくあるのは frontend と backend でそれぞれはフロントエンド用とバックエンド用) |
cache/ |
設定のキャッシュバージョン、(有効にした場合) アクションのキャッシュバージョン、そしてプロジェクトのテンプレートが収納される。キャッシュメカニズム (詳細は12章) は Web リクエストへのレスポンスを加速するためにこれらのファイルを使う。それぞれのアプリケーションはここにサブディレクトリを収納し、あらかじめ処理された PHP と HTML ファイルを保存する。 |
config/ |
プロジェクトの一般的な設定が保存される。 |
data/ |
ここでは、プロジェクトのデータファイルを保存できる。たとえば、データベーススキーマ、テーブルを作成する SQL ファイル、もしくは SQLite データベースファイルなど。 |
doc/ |
プロジェクトのドキュメントを保存するデフォルトのディレクトリ。 |
lib/ |
外部クラスもしくは外部ライブラリ専用。ここでは、アプリケーションのあいだで共有が必要なコードを追加できる。model/ サブディレクトリはプロジェクトのオブジェクトモデルを保存する (8章で説明)。 |
log/ |
symfony によって直接生成されたアプリケーションのログファイルを保存する。Web サーバーのログファイル、データベースのログファイル、もしくはプロジェクトの任意部分からのログファイルなども保存できる。symfony はアプリケーション単位と環境単位で1つのログファイルを作成する (ログファイルは16章で説明)。 |
plugins/ |
アプリケーションにインストールされたプラグインが保存される (プラグインは17章で説明) |
test/ |
PHP で記述され symfony のテストフレームワークと互換性のあるユニットテストと機能テストを保存する (15章で説明)。プロジェクトのセットアップ最中に、symfony はいくつかの基本的なテストを使ってスタブを自動的に追加する。 |
web/ |
Web サーバーのルート。インターネットからアクセスできるファイルはこのディレクトリに設置されたもののみ。 |
アプリケーションのツリー構造
すべてのアプリケーションディレクトリのツリー構造は同じです:
apps/
[application name]/
config/
i18n/
lib/
modules/
templates/
layout.php
テーブル2-2 - アプリケーションのサブディレクトリ
ディレクトリ | 説明 |
---|---|
config/ |
たくさんの YAML 設定ファイルの一式を収納する。フレームワーク自身で見つかるデフォルトパラメーターとは別に、たいていのアプリケーションの設定が存在する場所。必要な場合、ここでデフォルトパラメーターをさらにオーバーライドできることに注意。5章でアプリケーションの設定について詳しく学ぶ。 |
i18n/ |
アプリケーションの国際化のために使われるファイルが収納される。多くはインターフェイスの翻訳ファイルが収納される (13章で国際化機能を扱う)。国際化のために1つのデータベースを選択した場合、このディレクトリを回避できる。 |
lib/ |
アプリケーションに固有のクラスとライブラリが収納される。 |
modules/ |
アプリケーションの機能を含むすべてのモジュールが収納される。 |
templates/ |
アプリケーションのグローバルテンプレートの一覧が表示される。グローバルテンプレートはすべてのモジュールに共有される。デフォルトでは1つの layout.php ファイルが収納される。このファイルはモジュールテンプレートが挿入されるメインのレイアウト。 |
i18n/
、lib/
、modules/
ディレクトリは新しいアプリケーションのために空です。
アプリケーションのクラスは同じプロジェクトのほかのアプリケーションのメソッドもしくはプロパティにアクセスできません。同じプロジェクトの2つのアプリケーションのあいだのハイパーリンクは絶対パスでなければならないことを注意してください。1つのプロジェクトを複数のアプリケーションに分割する方法を選ぶとき、この最後の制約に注意する必要があります。
モジュールのツリー構造
それぞれのアプリケーションは1つもしくは複数のモジュールを収納します。それぞれのモジュールは独自のサブディレクトリを modules
ディレクトリに収納し、このディレクトリの名前はセットアップの最中に選択されます。
典型的なモジュールのツリー構造はつぎのとおりです:
apps/
[アプリケーションの名前]/
modules/
[モジュールの名前]/
actions/
actions.class.php
config/
lib/
templates/
indexSuccess.php
テーブル2-3でモジュールのサブディレクトリが説明されています。
テーブル2-3 - モジュールのサブディレクトリ
ディレクトリ | 説明 |
---|---|
actions/ |
一般的に action.class.php と呼ばれる単独のファイルが保存される。モジュールのすべてのアクションをこのファイルに保存できる。異なるファイルで1つのモジュールの異なるアクションを書くこともできる。 |
config/ |
モジュール用のローカルパラメーターを持つカスタム設定ファイルを保存できる。 |
lib/ |
モジュール固有のクラスとライブラリを保存できる。 |
templates/ |
モジュールのアクションに対応するテンプレートが収納される。デフォルトのテンプレートの名前は indexSuccess.php で、モジュールのセットアップの間に作成される。 |
config/
とlib/
ディレクトリは自動的には作成されず、必要になったタイミングで自分で作る必要があります。
web ディレクトリのツリー構造
web
ディレクトリは一般利用者がアクセスできるファイル用のディレクトリで、ごくわずかですが制約が存在します。基本的な命名規約に従うことでデフォルトのふるまいと便利なショートカットが提供されます。web
ディレクトリ構造の例はつぎのとおりです:
web/
css/
images/
js/
uploads/
慣習として、静的なファイルはテーブル2-4の一覧で示されるディレクトリに配置されます。
テーブル 2-4 - 典型的な web のサブディレクトリ
ディレクトリ | 説明 |
---|---|
css/ |
.css 拡張子を持つスタイルシートが格納される |
images/ |
.jpg 、.png もしくは .gif 拡張子を持つ画像が格納される |
js/ |
.js 拡張子を持つ JavaScript ファイルが格納される |
uploads/ |
ユーザーがアップロードしたファイルを保存できる。通常このディレクトリには画像が保存されるが、開発サーバーと運用サーバーの同期化がアップロードされた画像に影響を与えないように images ディレクトリとは区別される。 |
デフォルトのツリー構造の維持は大いに推奨されますが、特定のニーズのために修正することは可能です。たとえば、異なるツリー構造とコーディング規約を持つサーバーでプロジェクトを運営できるようにするためなどです。ファイルのツリー構造の修正に関する詳細な情報は19章を参照してください。
共通の手法
symfonyの開発のなかで少数のテクニックが繰り返し使われ、この本とあなた独自のプロジェクトでもこれらをよく目にすることになります。これらはパラメーターホルダー、定数、そしてクラスのオートロードを含みます。
パラメーターホルダー
symfony の多くのクラスは1つのパラメーターホルダー (parameter holder) を持ちます。これはゲッター (getter)とセッター (setter) メソッドを持つプロパティをカプセル化するために便利な方法です。たとえば、 sfRequest
クラスは getParameterHolder()
メソッドを呼び出すことで読みとりできるパラメーターホルダーを持ちます。リスト2-14で示されるように、それぞれのパラメーターホルダーは同じ方法でデータを保存します。
リスト2-14 - sfRequest
パラメーターホルダーを使う
$request->getParameterHolder()->set('foo', 'bar'); echo $request->getParameterHolder()->get('foo'); => 'bar'
パラメーターホルダーを使う多くのクラスは get/set オペレーションのために必要なコードを短くするプロキシメソッド (proxy method) を提供します。これはsfRequest
オブジェクトにもあてはまり、リスト2-15のコードはリスト2-14と同じことができます。
リスト2-15 - sfRequest
パラメーターホルダーのプロキシメソッドを使う
$request->setParameter('foo', 'bar'); echo $request->getParameter('foo'); => 'bar'
パラメーターホルダーのゲッターは2番目の引数をデフォルト値として受けとります。これは条件文で実現できることよりもはるかに簡潔で便利なフォールバックメカニズム (訳注:障害が起きても最低限の機能を維持するメカニズム) を提供します。具体例はリスト2-16をご覧ください。
リスト2-16 - パラメーターホルダーのゲッターのデフォルト値を使う
// 'foobar' パラメーターは定義されていないので、ゲッターは空の値を返す echo $request->getParameter('foobar'); => null // デフォルト値はゲッターを条件文に設置することで使える if ($request->hasParameter('foobar')) { echo $request->getParameter('foobar'); } else { echo 'default'; } => default // しかしそれに対してゲッターの2番目の引数を使うほうがはるかに速い echo $request->getParameter('foobar', 'default'); => default
(sfNamespacedParameterHolder
クラスのおかげで) symfony のコアクラスのなかには名前空間をサポートするものもあります。3番目の引数をセッターもしくはゲッターに指定する場合、これは名前空間として使われ、パラメーターはその名前空間でのみ定義されます。リスト2-17で例が示されています。
リスト2-17 - sfUser
パラメーターホルダーの名前空間を使う
$user->setAttribute('foo', 'bar1'); $user->setAttribute('foo', 'bar2', 'my/name/space'); echo $user->getAttribute('foo'); => 'bar1' echo $user->getAttribute('foo', null, 'my/name/space'); => 'bar2'
もちろん、構文のファシリティを利用するために独自クラスにパラメーターホルダーを追加することもできます。リスト2-18はパラメーターホルダーでクラスを定義する方法を示しています。
Listing 2-18 - Adding a Parameter Holder to a Class
リスト2-18 - 独自クラスにパラメーターホルダーを追加する
class MyClass { protected $parameterHolder = null; public function initialize($parameters = array()) { $this->parameterHolder = new sfParameterHolder(); $this->parameterHolder->add($parameters); } public function getParameterHolder() { return $this->parameterHolder; } }
定数
定数は一度定義すると変更できないので symfony では定数は見つかりません。symfony は sfConfig
と呼ばれる独自の設定オブジェクトを使い、これは定数を置き換えます。このオブジェクトはどこからでもパラメーターにアクセスできるスタティックメソッドを提供します。リスト2-19は sfConfig
クラスのメソッドの使いかたを示しています。
リスト2-19 - 定数の代わりに sfConfig
クラスのメソッドを使う
// PHP 定数の代わり define('FOO', 'bar'); echo FOO; // symfony は sfConfig オブジェクトを使う sfConfig::set('foo', 'bar'); echo sfConfig::get('foo');
sfConfig
メソッドはデフォルト値をサポートし、値を変更するために同じパラメーターで sfConfig::set()
メソッドを何度も呼び出すことができます。5章で sfConfig
メソッドの詳細を検討します。
クラスのオートロード機能
通常の方法では、PHP でクラスを使うもしくはオブジェクトを作るとき、まずはクラスの定義をインクルードする必要があります。
include_once 'classes/MyClass.php'; $myObject = new MyClass();
しかし、多くのクラスと深いディレクトリ構造をかかえる大きなプロジェクトにおいて、インクルードするすべてのクラスファイルとそれらのパスを追跡するために多くの時間が必要です。spl_autoload_register()
関数を提供することで、symfony はinclude_once
文を不要にするので、つぎのようにクラスを直接書けます:
$myObject = new MyClass();
symfony はプロジェクトの lib/
ディレクトリの1つのなかに存在する .class.php
拡張子で終わるすべてのファイルのなかの MyClass
の定義を探します。クラスの定義が見つかると、ファイルは自動的にインクルードされます。
すべてのクラスを lib/
ディレクトリに保存する場合、クラスをインクルードしなくてすみます。symfony プロジェクトが通常 include_once
文もしくは require_once
文を必要としない理由はそういうわけです。
パフォーマンスをさらに改善するために、symfony のオートロード機能は最初のリクエストの間に (内部の設定ファイルで定義された) ディレクトリのリストをスキャンします。symfony はこれらのディレクトリが収納するすべてのクラスを登録し、PHP ファイルに対応するクラス/ファイルを連想配列として保存します。この方法によって、今後のリクエストではディレクトリのスキャンを行う必要はありません。クラスファイルをプロジェクトに追加もしくは移動させるたびに
symfony cache:clear
コマンドを呼び出してキャッシュをクリアする必要がある理由はそういうわけです (開発環境を除いて、クラスが見つからないとき symfony は一度キャッシュをクリアします)。キャッシュは12章で、オートロード機能の設定は19章で学ぶことになります。
Summary
MVC フレームワーク (Model-View-Controller framework) を利用することで、フレームワークの規約にしたがってコードを分割して編成することが強制されます。プレゼンテーションのコードはビュー (View) に、データの操作コードはモデル (Model) に、リクエストの操作ロジックはコントローラー (Controller) になります。これによってMVCパターンのアプリケーションはとても便利で非常に制限されたものになります。
symfony は PHP で書かれたMVCフレームワークです。その構造は MVC パターンを乗り越えながらも、とても使いやすいように設計さされています。器用で設定が柔軟であるおかげで、すべての Web アプリケーションのプロジェクトに symfony を合わせることができます。
今、あなたは symfony の背後に存在する基本理論を理解したので、最初のアプリケーションを開発する準備がほとんど整いました。しかしそのまえに、symfony をインストールして開発サーバーで動かすことが必要です。
インデックス
Document Index
関連ページリスト
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- 第1章 - symfony の紹介
- 第2章 - symfony のコードを探求する
- 第3章 - symfony を動かす
- 第4章 - ページ作成の基本
- 第5章 - symfony を設定する
- 第6章 - コントローラーレイヤーの内側
- 第7章 - ビューレイヤーの内側
- 第8章 - モデルレイヤーの内側 (Doctrine)
- 第9章 - リンクとルーティングシステム
- 第10章 - フォーム
- 第11章 - Eメール
- 第12章 - キャッシュ
- 第13章 - 国際化とローカライゼーション
- 第14章 - Admin ジェネレーター
- 第15章 - ユニットテストと機能テスト
- 第16章 - アプリケーションの運用ツール
- 第17章 - symfony を拡張する
- 第18章 - パフォーマンス
- 第19章 - symfony の設定ファイルをマスターする
- Appendix A - モデルレイヤーの内側(Propel)
- Appendix B - GNU Free Documentation License
日本語ドキュメント
Japanese Documents
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