高度なフォーム
Ryan Weaver、Fabien Potencier 著
symfony のフォームフレームワークを使うと、開発者は、オブジェクト指向的な手法で簡単にフォームデータを表示し、バリデートできます。ORM によって提供される ~sfFormDoctrine
~ クラスや ~sfFormPropel
~ クラスのおかげで、 データレイヤーに密接に関連するフォームの表示やデータの保存を簡単に行えます。
しかし実際には、開発者はしばしばフォームをカスタマイズしたり拡張しなくてはなりません。この章では、いくつかのよくある高度なフォームの問題について説明し、実装していきます。また、~sfForm
~ オブジェクトの内部にも触れ、謎を解き明かします。
ミニプロジェクト: 製品と写真
最初の課題として、個々の製品と、製品ごとに枚数に制限のない写真の編集について取り上げます。ユーザーは、同一のフォームで製品 (Product) の情報と製品の写真 (ProductPhoto) の両方を編集できる必要があります。また、製品に対する新しい写真を一度に2枚までアップロードできるようにします。ここでは次のようなスキーマを使います:
Pこの章を完了すると、次のようなフォームが表示されます:
例からより多くを学ぶ
高度なテクニックを学ぶには、例に沿って順番にテストしていくことが重要です。symfony の --installer
機能を使うと、SQLite データベース、Doctrine データベーススキーマ、フィクスチャ、frontend
アプリケーション、product
モジュールを使える準備が整った作業用のプロジェクトを簡単に構築できます。インストーラを script からダウンロードし、次のコマンドを実行して symfony プロジェクトを作ってください:
$ php symfony generate:project advanced_form --installer=/path/to/advanced_form_installer.php
このコマンドにより、前の節で示したデータベーススキーマが設定された完全に動作するプロジェクトが作られます。
この章で使うファイルのパスは、上のタスクで作られた Doctrine を使っている symfony プロジェクトに合わせています。
基本フォームのセットアップ
要件には 2 つの異なるモデル (Product
と ProductPhoto
) への変更処理が含まれているので、2 つの異なるフォーム (ProductForm
と ProductPhotoForm
) を結合する必要があります。さいわい、フォームフレームワークの ~sfForm::embedForm()
~ を使うことで、複数のフォームを簡単に 1 つに結合できます。まず、ProductPhotoForm
のみをセットアップします。この例では、filename
フィールドをファイルアップロードフィールドとして使います:
// lib/form/doctrine/ProductPhotoForm.class.php public function configure() { $this->useFields(array('filename', 'caption')); $this->setWidget('filename', new sfWidgetFormInputFile()); $this->setValidator('filename', new sfValidatorFile(array( 'mime_types' => 'web_images', 'path' => sfConfig::get('sf_upload_dir').'/products', ))); }
このフォームでは、caption
フィールドと filename
フィールドは自動的に必須になりますが、それぞれの理由は異なります。caption
フィールドは、対応するデータベーススキーマで notnull
プロパティが true
に設定されているため、必須になります。filename
フィールドは、バリデータオブジェクトの required
オプションのデフォルト値が true
なので必須になります。
~
sfForm::useFields()
~ は symfony 1.3 の新しい機能で、フォームでどのフィールドを使い、どの順番で表示するのかを厳密に指定できます。HIDDEN でなく、このメソッドに指定されていない他のフィールドは、フォームから削除されます。
ここまでは、通常のフォームのセットアップと変わりません。次は、これらのフォームを1つに結合します。
フォームを埋め込む
~sfForm::embedForm()
~ を使うと、個別の ProductForm
フォームと ProductPhotoForms
フォームをほとんど手間をかけずに結合できます。作業は常にメインのフォームに対して行います。ここでは ProductForm
フォームがメインです。今回の要件では、一度に2枚まで製品の写真をアップロードできるよう求められています。この要件に従うために、2つの ProductPhotoForm
オブジェクトを ProductForm
に埋め込みます:
// lib/form/doctrine/ProductForm.class.php public function configure() { $subForm = new sfForm(); for ($i = 0; $i < 2; $i++) { $productPhoto = new ProductPhoto(); $productPhoto->Product = $this->getObject(); $form = new ProductPhotoForm($productPhoto); $subForm->embedForm($i, $form); } $this->embedForm('newPhotos', $subForm); }
ブラウザで product
モジュールにアクセスすると、Product
オブジェクトの編集と同時に2つの ProductPhoto
をアップロードできるようになっています。写真を選択してフォームを送信すると、symfony により新しい ProductPhoto
オブジェクトが自動的に保存され、対応する Product
オブジェクトにリンクされます。ProductPhotoForm
で定義されているファイルアップロードについても、通常通り実行されます。
レコードがデータベースに正しく保存されていることを確認してみましょう:
$ php symfony doctrine:dql --table "FROM Product"
$ php symfony doctrine:dql --table "FROM ProductPhoto"
ProductPhoto
テーブルで、写真のファイル名に注意してください。データベースにある名前のファイルが web/uploads/products/
ディレクトリに存在すれば、すべては期待通りに動作しています。
ファイル名フィールドとキャプションフィールドは
ProductPhotoForm
で必須なので、新しい写真を2枚ともアップロードしない限りメインフォームでのバリデーションは失敗します。後の節でこの問題を解決していきます。
リファクタリング
ここまでのフォームは期待どおりに動作しましたが、よりテストしやすく、再利用しやすいようにコードをリファクタリングしておきましょう。
まず、すでに記述したコードをもとに、ProductPhotoForm
のコレクションをあらわす新しいフォームを作ります:
// lib/form/doctrine/ProductPhotoCollectionForm.class.php class ProductPhotoCollectionForm extends sfForm { public function configure() { if (!$product = $this->getOption('product')) { throw new InvalidArgumentException('You must provide a product object.'); } for ($i = 0; $i < $this->getOption('size', 2); $i++) { $productPhoto = new ProductPhoto(); $productPhoto->Product = $product; $form = new ProductPhotoForm($productPhoto); $this->embedForm($i, $form); } } }
このフォームでは次の2つのオプションを使います:
-
product
:ProductPhotoForm
のコレクションを作る対象の製品オブジェクト。 -
size
: 作成するProductPhotoForm
の数 (デフォルトは2)。
では、ProductForm
の configure()
メソッドを次のように変更します:
// lib/form/doctrine/ProductForm.class.php public function configure() { $form = new ProductPhotoCollectionForm(null, array( 'product' => $this->getObject(), 'size' => 2, )); $this->embedForm('newPhotos', $form); }
sfForm オブジェクトの内部を調べる
基本的な意味において、Web フォームとはブラウザに表示され、サーバーに送り返されるフィールドのコレクションです。同じように、~sfForm
~ オブジェクトはフォームフィールドの配列です。~sfForm
~ はフォームの処理を管理し、個々のフィールドはそれ自身のレンダリングとバリデーションの定義を担当します。
symfony では、2 つの異なるオブジェクトで各フォームフィールドを定義します:
- ウィジェット フォームフィールドの XHTML マークアップを出力します。
- バリデータ 送信されたフィールドデータをクリーンアップし、バリデートします。
symfony では、ウィジェットは XHTML マークアップを出力するだけのオブジェクトとして定義されています。もっとも一般的なフォームで利用する場合、ウィジェットオブジェクトを作り、マークアップを出力します。
フォームは配列
~sfForm
~ オブジェクトは、「基本的にはフォームフィールドの配列である」ということを思い出してください。より厳密に言うと、sfForm
にはフォームのすべてのフィールドに対応するウィジェットの配列とバリデータの配列が格納されています。これらの2つの配列は、それぞれ widgetSchema
および validatorSchema
と呼ばれ、sfForm
クラスのプロパティになっています。フォームにフィールドを追加するには、単純にフィールドのウィジェットを widgetSchema
配列に追加し、フィールドのバリデータを validatorSchema
配列に追加するだけです。 たとえば、次のコードではフォームに email
フィールドを追加しています:
public function configure() { $this->widgetSchema['email'] = new sfWidgetFormInputText(); $this->validatorSchema['email'] = new sfValidatorEmail(); }
widgetSchema
配列とvalidatorSchema
配列は、実際にはそれぞれ ~sfWidgetFormSchema
~ と ~sfValidatorSchema
~ と呼ばれる特殊なクラスで、ArrayAccess
インターフェイスを実装しています。
ProductForm
の内部を調べる
ProductForm
クラスは sfForm
を継承しているので、すべてのウィジェットとバリデータが、このクラスの widgetSchema
配列と validatorSchema
配列に格納されています。最終的な ProductForm
オブジェクトで、これらの配列の中身がどのようになっているのかを見てみましょう。
widgetSchema => array ( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [name] => sfWidgetFormInputText, [price] => sfWidgetFormInputText, [newPhotos] => array( [0] => array( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [filename] => sfWidgetFormInputFile, [caption] => sfWidgetFormInputText, ), [1] => array( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [filename] => sfWidgetFormInputFile, [caption] => sfWidgetFormInputText, ), ), ) validatorSchema => array ( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [name] => sfValidatorString, [price] => sfValidatorNumber, [newPhotos] => array( [0] => array( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [filename] => sfValidatorFile, [caption] => sfValidatorString, ), [1] => array( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [filename] => sfValidatorFile, [caption] => sfValidatorString, ), ), )
実際には、
widgetSchema
とvalidatorSchema
は配列として振る舞うオブジェクトです。上のnewPhotos
キー、0
キー、1
キーに格納されている配列は、それぞれsfWidgetSchema
オブジェクトとsfValidatorSchema
オブジェクトです。
予想したとおり、基本フィールド (id
、name
、price
) が各配列の最初の階層にあります。別のフォームが埋め込まれていないフォームの widgetSchema
配列と validatorSchema
配列は、フォームの基本フィールドを表す単一の階層のみで構成されます。埋め込みフォームのウィジェットとバリデータは、上のように widgetSchema
および validatorSchema
の子配列となります。この処理を管理するメソッドについては、次の節で説明します。
~sfForm::embedForm()
~ の内側
フォームはウィジェットの配列、およびバリデータの配列で構成されていることを覚えておいてください。あるフォームを別のフォームに埋め込むということは、フォームのウィジェットとバリデータの配列が、メインフォームのウィジェットとバリデータの配列に追加されるということです。この処理は、すべて sfForm::embedForm()
によって行われます。結果は、上で見たように widgetSchema
配列および validatorSchema
配列に多次元で追加されます。
以降では、個々の ProductPhotoForm
オブジェクトを1つにまとめる ProductPhotoCollectionForm
のセットアップについて説明します。この中間フォームは「ラッパー」フォームとして動作し、全体のフォームを構成するのに役立ちます。ProductPhotoCollectionForm::configure()
のなかの次のコードから説明を始めましょう:
$form = new ProductPhotoForm($productPhoto); $this->embedForm($i, $form);
ProductPhotoCollectionForm
フォーム自身は新しい sfForm
オブジェクトです。したがって、widgetSchema
配列、および validatorSchema
配列は空です。
widgetSchema => array() validatorSchema => array()
しかし、各 ProductPhotoForm
にはすでに3つのフィールド (id
、filename
、 caption
) があり、対応する3つの要素が widgetSchema
配列、および validatorSchema
配列にあります。
widgetSchema => array ( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [filename] => sfWidgetFormInputFile, [caption] => sfWidgetFormInputText, ) validatorSchema => array ( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [filename] => sfValidatorFile, [caption] => sfValidatorString, )
~sfForm::embedForm()
~ メソッドでは、空の ProductPhotoCollectionForm
オブジェクトの widgetSchema
配列と validatorSchema
配列に、各 ProductPhotoForm
の widgetSchema
配列と validatorSchema
配列を単純に追加します。
ラッパーフォーム (ProductPhotoCollectionForm
) への埋め込み処理が完了すると、ラッパーフォームの widgetSchema
配列と validatorSchema
配列は多次元配列になり、2つの ProductPhotoForm
のウィジェットとバリデータが格納されています。
widgetSchema => array ( [0] => array ( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [filename] => sfWidgetFormInputFile, [caption] => sfWidgetFormInputText, ), [1] => array ( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [filename] => sfWidgetFormInputFile, [caption] => sfWidgetFormInputText, ), ) validatorSchema => array ( [0] => array ( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [filename] => sfValidatorFile, [caption] => sfValidatorString, ), [1] => array ( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [filename] => sfValidatorFile, [caption] => sfValidatorString, ), )
この処理の最後のステップでは、ここまでで生成されたラッパーフォームの ProductPhotoCollectionForm
を、直接 ProductForm
に埋め込みます。これは、ProductPhotoCollectionForm
内部の処理結果を利用すると、ProductForm::configure()
で次のようにするだけです:
$form = new ProductPhotoCollectionForm(null, array( 'product' => $this->getObject(), 'size' => 2, )); $this->embedForm('newPhotos', $form);
これで、上で示した最終的な widgetSchema
配列と validatorSchema
配列の構造が得られます。embedForm()
メソッドの処理は、次のように手作業で widgetSchema
配列と validatorSchema
配列を結合するのとほとんど同じだということに気づくでしょう:
$this->widgetSchema['newPhotos'] = $form->getWidgetSchema(); $this->validatorSchema['newPhotos'] = $form->getValidatorSchema();
埋め込みフォームをビューでレンダリングする
product
モジュール用の現在の _form.php
テンプレートは、次のようになっています:
// apps/frontend/module/product/templates/_form.php <!-- ... --> <tbody> <?php echo $form ?> </tbody> <!-- ... -->
<?php echo $form ?>
ステートメントはフォームを表示するもっとも簡単な方法で、複雑なフォームの場合にも使えます。これはプロトタイプを開発する際に便利ですが、通常はレイアウトを変更し、独自の表示ロジックに置き換えるでしょう。この行を削除して置き換えていきます。
埋め込みフォームをビューでレンダリングする際に理解しておくべきもっとも重要なことは、前の節で説明した多次元の widgetSchema
配列の構成です。この例では、ProductForm
の基本的なフィールドである name
と price
をビューでレンダリングするところから説明を始めます:
// apps/frontend/module/product/templates/_form.php <?php echo $form['name']->renderRow() ?> <?php echo $form['price']->renderRow() ?> <?php echo $form->renderHiddenFields() ?>
名前から分かるとおり、renderHiddenFields()
によりフォームの HIDDEN フィールドがレンダリングされます。
ここでは、アクションのコードについては特に注意する点がないため、意図的に示していません。
apps/frontend/modules/product/actions/actions.class.php
にあるアクションファイルを見てください。アクションのファイルは通常の CRUD と同じで、doctrine:generate-module
タスクで生成できます。
すでに学んだように、sfForm
クラスにはフィールドを定義する widgetSchema
配列と validatorSchema
配列が格納されています。さらに、sfForm
クラスは PHP 5 ネイティブの ArrayAccess
インターフェイスを実装しているので、上で見たように配列のキーを使う構文でフォームのフィールドに直接アクセスできます。
フィールドを出力するには、フィールドに直接アクセスして renderRow()
メソッドを呼び出します。ところで、$form['name']
はどの種類のオブジェクトなのでしょうか? name
フィールドに対応する sfWidgetFormInputText
ウィジェットだと想像するかもしれませんが、答えは若干異なります。
~sfFormField
~ を使って各フォームフィールドをレンダリングする
sfForm
によって、各フォームクラスで定義される widgetSchema
配列および validatorSchema
配列から、sfFormFieldSchema
と呼ばれる3つ目の配列が自動生成されます。この配列には、フィールドの出力を担うヘルパークラスとして動作する特殊なオブジェクトが、フィールドごとに格納されています。これは ~sfFormField
~ クラスのオブジェクトで、各フィールドのウィジェットとバリデータを組み合わせて自動的に作られます。
<?php echo $form['name']->renderRow() ?>
上のスニペットで、$form['name']
は sfFormField
オブジェクトです。このオブジェクトには、renderRow()
メソッドや、いくつかのレンダリングに役立つ機能があります。
sfFormField クラスのレンダリングメソッド
各 sfFormField
オブジェクトは、フィールドのすべての側面、たとえばフィールド自身、ラベル、エラーメッセージなどを簡単にレンダリングするのに使えます。sfFormField
にある役立つメソッドを以下にいくつか紹介します。他の多くのメソッドについては、symfony 1.3 API を参照してください。
-
sfFormField->render()
: フィールドのウィジェットオブジェクトを使って、正しい値のフォームフィールド (たとえばinput
やselect
) をレンダリングします。 -
sfFormField->renderError()
: フィールドのバリデータを使って、フィールドのバリデーションエラーをレンダリングします。 -
sfFormField->renderRow()
: すべてを網羅: ラベル、フォームフィールド、エラーおよびヘルプメッセージを、XHTML マークアップラッパー内にレンダリングします。
実際には、
sfFormField
クラスの各レンダリングメソッドは、フォームのwidgetSchema
プロパティの情報も使います。widgetSchema
プロパティはsfWidgetFormSchema
オブジェクトで、フォームのすべてのウィジェットの情報が格納されています。sfFormField
クラスは、各フィールドのname
属性やid
属性の生成をサポートし、各フィールドのラベルを追跡し、renderRow()
で使用する XHTML マークアップを定義します。
formFieldSchema
配列が、フォームの widgetSchema
配列、および validatorSchema
配列の構造を常にミラーすることは重要です。たとえば、完成した ProductForm
の formFieldSchema
配列は、次のような構造になります。配列のキーは、ビューで各フィールドをレンダリングするのに使います:
formFieldSchema => array ( [id] => sfFormField [name] => sfFormField, [price] => sfFormField, [newPhotos] => array( [0] => array( [id] => sfFormField, [filename] => sfFormField, [caption] => sfFormField, ), [1] => array( [id] => sfFormField, [filename] => sfFormField, [caption] => sfFormField, ), ), )
新しい ProductForm をレンダリングする
上の配列を参考にすると sfFormField
オブジェクトの適切な格納位置がわかるので、埋め込んだ ProductPhotoForm
のフィールドをビューで簡単に出力できます:
// apps/frontend/module/product/templates/_form.php <?php foreach ($form['newPhotos'] as $photo): ?> <?php echo $photo['caption']->renderRow() ?> <?php echo $photo['filename']->renderRow() ?> <?php endforeach; ?>
このブロックは2回ループします: 1回目は0
キーのフォームフィールド配列に対して、2回目は1
キーのフォームフィールド配列に対してです。上の図で見たように、各配列に格納されているオブジェクトは sfFormField
オブジェクトで、ほかのフィールドと同じように出力できます。
オブジェクトフォームを保存する
ほとんどの場合、フォームは1つ以上のデータベーステーブルと関連しており、送信されたデータに基づいて関連するテーブルのデータを変更します。symfony により、各スキーマモデルに対するフォームオブジェクトは自動生成されます。フォームオブジェクトは、使っている ORM によって sfFormDoctrine
または sfFormPropel
のいずれかを継承しています。それぞれのフォームクラスの中身はほとんど同じで、送信された値を簡単にデータベースに保存できます。
~
sfFormObject
~ は、symfony 1.3 で追加された新しいクラスで、sfFormDoctrine
とsfFormPropel
の共通処理を扱います。sfFormDoctrine
とsfFormPropel
はsfFormObject
を継承し、次の節で説明するフォームの保存処理の一部を担当します。
フォームの保存処理
この章の例では、開発者が手を加えることなく、symfony によって自動的に Product
の情報と新しい ProductPhoto
オブジェクトが保存されます。まるで魔法のようなメソッドの ~sfFormObject::save()
~ は、舞台裏でさまざまなメソッドを実行します。この処理を理解することが、より高度な状況で処理を拡張するための鍵となります。
フォームの保存処理は ~sfFormObject::save()
~ を呼び出すと実行され、内部では以下で説明するメソッドが実行されます。大部分の処理は、すべての埋め込みフォームについて再帰的に実行される ~sfFormObject::updateObject()
~ メソッドで行われます。
保存処理のほとんどは ~
sfFormObject::doSave()
~ メソッドで実行されます。このメソッドはsfFormObject::save()
から呼び出され、データベーストランザクション処理が行われます。保存処理自体を変更する場合、通常はsfFormObject::doSave()
を変更するのがよいでしょう。
埋め込みフォームを無視する
現在の ProductForm
の実装には、大きな欠陥があります。ProductPhotoForm
で filename
フィールドと caption
フィールドが必須なので、新しい写真を 2 つともアップロードしない限り、メインフォームでのバリデーションはエラーとなります。つまり、単に Product
の価格を変更する場合でも、新しい写真を2つともアップロードしなくてはなりません。
要件を次のように定義し直しましょう。埋め込んだ ProductPhotoForms
でユーザーが caption
フィールドと filename
フィールドを両方とも空欄とした場合、そのフォームを完全に無視します。caption
フィールドと filename
フィールドの少なくとも 1 つにデータがある場合は、フォームは通常通りバリデーションを実行し、保存処理を行います。この要件を実装するために、カスタムポストバリデータなどの高度なテクニックを使います。
ProductPhotoForm
フォームを編集して、caption
フィールドと filename
フィールドのバリデーションで必須を解除するところから始めます:
// lib/form/doctrine/ProductPhotoForm.class.php public function configure() { $this->setValidator('filename', new sfValidatorFile(array( 'mime_types' => 'web_images', 'path' => sfConfig::get('sf_upload_dir').'/products', 'required' => false, ))); $this->validatorSchema['caption']->setOption('required', false); }
上のコードでは、filename
フィールドのデフォルトのバリデータを置き換える際に required
オプションを false
に設定しました。また、caption
フィールドの required
オプションは個別に false
に設定しています。
ではポストバリデータを ProductPhotoCollectionForm
に追加しましょう:
// lib/form/doctrine/ProductPhotoCollectionForm.class.php public function configure() { // ... $this->mergePostValidator(new ProductPhotoValidatorSchema()); }
ポストバリデータは特殊なバリデータで、単一のフィールドの値のみをバリデートするのではなく、送信されたすべての値を横断してバリデートします。もっともよく使われるポストバリデータは sfValidatorSchemaCompare
で、たとえばあるフィールドが別のフィールドより小さいかどうかを検証できます。
カスタムバリデータを作る
カスタムバリデータを作るのはとても簡単です。ProductPhotoValidatorSchema.class.php
という名前の新しいファイルを lib/validator/
ディレクトリに作ります (ディレクトリを作る必要があります):
// lib/validator/ProductPhotoValidatorSchema.class.php class ProductPhotoValidatorSchema extends sfValidatorSchema { protected function configure($options = array(), $messages = array()) { $this->addMessage('caption', 'The caption is required.'); $this->addMessage('filename', 'The filename is required.'); } protected function doClean($values) { $errorSchema = new sfValidatorErrorSchema($this); foreach($values as $key => $value) { $errorSchemaLocal = new sfValidatorErrorSchema($this); // ファイル名があるが、キャプションがない if ($value['filename'] && !$value['caption']) { $errorSchemaLocal->addError(new sfValidatorError($this, 'required'), 'caption'); } // キャプションがあるが、ファイル名がない if ($value['caption'] && !$value['filename']) { $errorSchemaLocal->addError(new sfValidatorError($this, 'required'), 'filename'); } // キャプションとファイル名の両方がない。空の値を削除 if (!$value['filename'] && !$value['caption']) { unset($values[$key]); } // この埋め込みフォームでのエラー if (count($errorSchemaLocal)) { $errorSchema->addError($errorSchemaLocal, (string) $key); } } // エラーをメインフォームへスロー if (count($errorSchema)) { throw new sfValidatorErrorSchema($this, $errorSchema); } return $values; } }
すべてのバリデータは
sfValidatorBase
を継承し、必要なのはdoClean()
メソッドの実装のみです。configure()
メソッドを使うと、バリデータにオプションやメッセージを追加することもできます。この例では、2 つのメッセージをバリデータに追加しています。同様に、addOption()
メソッドを使って追加のオプションを設定できます。
doClean()
メソッドでは、フィールドにバインドされた値のクリーニングとバリデーションが実行されます。バリデータのロジックは次のようにとても単純です:
-
写真がファイル名のみ、またはキャプションのみで送信された場合、適切なメッセージを含むエラー (
sfValidatorErrorSchema
) を投げます。 -
送信された写真にファイル名もキャプションもなかった場合、空の写真が保存されないように値をすべて削除します。
-
バリデーションエラーがなかった場合、クリーンアップされた値がメソッドから返されます。
この例でのカスタムバリデータは、ポストバリデータとして使うことを前提としています。したがって、
doClean()
メソッドには結合された値の配列が渡され、メソッドはクリーニングした値の配列を返します。単一のフィールド用のカスタムバリデータを作るのはもっと簡単で、doClean()
メソッドは送信されたフィールドの値のみを受け取り、単一の値のみを返します。
最後のステップでは、ProductForm
の saveEmbeddedForms()
メソッドをオーバーライドして、空の写真がデータベースに保存されないよう空の写真フォームを削除するように変更します (この変更を行わないと、データベースの caption
カラムが必須なので例外が投げられます):
public function saveEmbeddedForms($con = null, $forms = null) { if (null === $forms) { $photos = $this->getValue('newPhotos'); $forms = $this->embeddedForms; foreach ($this->embeddedForms['newPhotos'] as $name => $form) { if (!isset($photos[$name])) { unset($forms['newPhotos'][$name]); } } } return parent::saveEmbeddedForms($con, $forms); }
Doctrine フォームを簡単に埋め込む
symfony 1.3 の新機能として、一対多のリレーションシップをフォームに自動的に埋め込みできる ~sfFormDoctrine::embedRelation()
~ メソッドがあります。たとえば、Product
に関連する新しい ProductPhotos
を2つアップロードできるだけでなく、関連する既存の ProductPhoto
オブジェクトをユーザーが編集できるようにする場合を考えます。
embedRelation()
メソッドを使うと、既存の ProductPhoto
オブジェクトごとに ProductPhotoForm
オブジェクトを1つ追加します:
// lib/form/doctrine/ProductForm.class.php public function configure() { // ... $this->embedRelation('Photos'); }
~sfFormDoctrine::embedRelation()
~ の内部では、2つの ProductPhotoForm
オブジェクトを手作業で埋め込んだのとほとんど同じ処理が行われます。2つの ProductPhoto
リレーションがすでに存在している場合、この処理の結果、フォームの widgetSchema
配列と validatorSchema
配列は次のような構成になります:
widgetSchema => array ( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [name] => sfWidgetFormInputText, [price] => sfWidgetFormInputText, [newPhotos] => array(...) [Photos] => array( [0] => array( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [caption] => sfWidgetFormInputText, ), [1] => array( [id] => sfWidgetFormInputHidden, [caption] => sfWidgetFormInputText, ), ), ) validatorSchema => array ( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [name] => sfValidatorString, [price] => sfValidatorNumber, [newPhotos] => array(...) [Photos] => array( [0] => array( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [caption] => sfValidatorString, ), [1] => array( [id] => sfValidatorDoctrineChoice, [caption] => sfValidatorString, ), ), )
次のステップでは、新しい Photo 埋め込みフォームをレンダリングするコードをビューに追加しましょう:
// apps/frontend/module/product/templates/_form.php <?php foreach ($form['Photos'] as $photo): ?> <?php echo $photo['caption']->renderRow() ?> <?php echo $photo['filename']->renderRow(array('width' => 100)) ?> <?php endforeach; ?>
このスニペットは、新規の写真フォームの埋め込みに使ったコードとほとんど同じです。
最後のステップでは、ファイルアップロードフィールドを sfWidgetFormInputFileEditable
に変更して、ユーザーが現在の写真を確認し、別の写真に変更できるようにします:
public function configure() { $this->useFields(array('filename', 'caption')); $this->setValidator('filename', new sfValidatorFile(array( 'mime_types' => 'web_images', 'path' => sfConfig::get('sf_upload_dir').'/products', 'required' => false, ))); $this->setWidget('filename', new sfWidgetFormInputFileEditable(array( 'file_src' => '/uploads/products/'.$this->getObject()->filename, 'edit_mode' => !$this->isNew(), 'is_image' => true, 'with_delete' => false, ))); $this->validatorSchema['caption']->setOption('required', false); }
フォームのイベント
symfony 1.3 の新機能でフォームイベントが追加されました。このイベントを使うと、プロジェクトの任意の場所でフォームオブジェクトを拡張できます。次の4つのイベントを利用できます:
form.post_configure
: フォームが設定された時に通知されるイベントform.filter_values
: バインドされる前に、マージまたは汚染されたパラメータやファイルの配列をフィルタするイベントform.validation_error
: フォームのバリデーションでエラーが発生した場合に通知されるイベントform.method_not_found
: 未知のメソッドが呼び出された時に通知されるイベント
form.validation_error
を使ったカスタムロギング
フォームイベントを使うと、プロジェクトの任意のフォームにおけるバリデーションエラー用のカスタムロギングを追加できます。このログは、ユーザーがミスする頻度の高いフォームやフィールドを追跡するのに役立ちます。
はじめに、form.validation_error
イベントのイベントディスパッチャにリスナーを登録します。次のコードを、config
ディレクトリにある ProjectConfiguration
の setup()
メソッドに追加してください:
public function setup() { // ... $this->getEventDispatcher()->connect( 'form.validation_error', array('BaseForm', 'listenToValidationError') ); }
lib/form
にある BaseForm
は、すべてのフォームクラスの基底となる特殊なフォームクラスです。基本的に、BaseForm
にはプロジェクト全体のフォームオブジェクトからアクセスしたいコードを記述します。バリデーションエラー時のロギングを有効にするには、次のコードを BaseForm
クラスに追加してください:
public static function listenToValidationError($event) { foreach ($event['error'] as $key => $error) { self::getEventDispatcher()->notify(new sfEvent( $event->getSubject(), 'application.log', array ( 'priority' => sfLogger::NOTICE, sprintf('Validation Error: %s: %s', $key, (string) $error) ) )); } }
フォーム要素でエラーが発生した場合のカスタムスタイル
最後に、フォーム要素のスタイルに関連する少しやさしいトピックを取り上げます。例として、Product
ページのデザインで、バリデーションエラーが発生したフィールドを特別なスタイルで表示するとします。
デザイナーがすでにエラースタイルを、エラーのある input
フィールドを含む div
の form_error_row
クラスとしてスタイルシートに実装しているとします。どうすれば、エラーの発生したフィールドだけに簡単に form_row_error
クラスを追加できるでしょうか。
答えは、フォームスキーマフォーマッタと呼ばれる特別なオブジェクトにあります。すべての symfony フォームは、フォーム要素の出力に必要な HTML フォーマットを決定するために、フォームスキーマフォーマッタを使います。デフォルトでは、HTML テーブルタグを採用するフォームフォーマッタが使われます。
まず、少し簡易なフォーマットでフォームを出力するフォームスキーマフォーマッタクラスを作りましょう。sfWidgetFormSchemaFormatterAc2009.class.php
という名前の新しいファイルを、lib/widget/
ディレクトリに作ります (ディレクトリを作る必要があります):
class sfWidgetFormSchemaFormatterAc2009 extends sfWidgetFormSchemaFormatter { protected $rowFormat = "<div class=\"form_row\"> %label% \n %error% <br/> %field% %help% %hidden_fields%\n</div>\n", $errorRowFormat = "<div>%errors%</div>", $helpFormat = '<div class="form_help">%help%</div>', $decoratorFormat = "<div>\n %content%</div>"; }
このクラスのフォーマットはよくありませんが、renderRow()
メソッドによる出力では $rowFormat
のマークアップが使われるということはわかるでしょう。ここでは詳細を説明しませんが、フォームスキーマフォーマッタクラスには他にも多くのフォーマットオプションがあります。詳細は、 symfony 1.3 API を参照してください。
プロジェクトのすべてのフォームオブジェクトで新しいフォームスキーマフォーマッタを使うには、次のコードを ProjectConfiguration
に追加します:
class ProjectConfiguration extends sfProjectConfiguration { public function setup() { // ... sfWidgetFormSchema::setDefaultFormFormatterName('ac2009'); } }
次にしなければいけないことは、フィールドがバリデーションエラーである場合にのみ、form_row
DIV 要素に form_row_error
クラスを追加することです。$rowFormat
プロパティに %row_class%
トークンを追加し、~sfWidgetFormSchemaFormatter::formatRow()
~ メソッドを次のようにオーバーライドします:
class sfWidgetFormSchemaFormatterAc2009 extends sfWidgetFormSchemaFormatter { protected $rowFormat = "<div class=\"form_row%row_class%\"> %label% \n %error% <br/> %field% %help% %hidden_fields%\n</div>\n", // ... public function formatRow($label, $field, $errors = array(), $help = '', $hiddenFields = null) { $row = parent::formatRow( $label, $field, $errors, $help, $hiddenFields ); return strtr($row, array( '%row_class%' => (count($errors) > 0) ? ' form_row_error' : '', )); } }
この追加により、renderRow()
メソッドによって出力される各要素は、フィールドにバリデーションエラーがある場合、自動的に form_row_error
div
で囲まれます。
最後に
フォームフレームワークは、symfony におけるもっとも強力で、かつ、もっとも複雑なコンポーネントの 1 つです。厳密なフォームバリデーション、CSRF 保護、オブジェクトフォームの便利さと引き替えに、フォームの拡張作業はとても困難になっています。しかし、フォームシステムの内部を理解することで、フォームフレームワークの持つ力を利用するための扉を開けることができます。この章で、みなさんがその扉に一歩近づけることを願っています。
将来的には、フォームフレームワークは現在の柔軟さを維持しつつ、複雑さを減らして、開発者がより拡張しやすくなることに焦点を置きます。フォームフレームワークは、まだ初期段階なのです。
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