Doctrine のテーブル継承の活用
Hugo Hamon 著
symfony 1.3 では ~Doctrine~ が正式にデフォルトの ORM となった一方、Propel の開発速度はここ数ヶ月で落ちてきています。~Propel~ プロジェクトは現在も symfony コミュニティメンバーのおかげでサポートと改善が続けられています。
Doctrine 1.2 が新たに symfony のデフォルト ORM となりました。Doctrine は Propel と比べてより使いやすく、またビヘイビア、DQL、マイグレーション、テーブル継承などの豊富な機能を備えています。
この章では~テーブル継承~とは何か、symfony 1.3 においてどう活用するかを説明します。この章では図を交えて、Doctrine のテーブル継承についてわかりやすく説明していきます。
Doctrineのテーブル継承
あまり知られていませんが、テーブル継承は Doctrine の機能の中でもっともおもしろい機能の1つです。テーブル継承はオブジェクト指向プログラミングのクラス継承と同じように、継承したテーブルをデータベース上に作成できます。テーブル継承では 2 つ以上の情報を 1 つの親テーブルにて共有する簡単な方法を提供します。以下の図式をみるとテーブル継承の考え方がよりわかりやすいかと思います。
Doctrine ではアプリケーション (パフォーマンス、アトミック性、単純性) によって、単一、具象、カラム集約の異なる3種類のテーブル継承の手法を提供しています。これらの手法については Doctrine book にて解説されており、より詳しい情報が知りたい場合はこちらにも目を通してみてください。
単一テーブル継承
単一テーブル継承
はもっともシンプルな手法で、子テーブルのカラムも含めたすべてのカラムを、親となるテーブルに格納します。下記のYAMLスキーマの場合は Professor
と Student
テーブルのカラムも含めた単一の Person
テーブルを作成するものです。
---
Person:
columns:
first_name:
type: string(50)
notnull: true
last_name:
type: string(50)
notnull: true
Professor:
inheritance:
type: simple
extends: Person
columns:
specialty:
type: string(50)
notnull: true
Student:
inheritance:
type: simple
extends: Person
columns:
graduation:
type: string(20)
notnull: true
promotion:
type: integer(4)
notnull: true
単一継承では、Student
や Professor
モデルが作られたとしても、トップレベルの Person
モデルに対して specialty
、graduation
、promotion
といったカラムが自動的に追加されます。
この手法には重大な欠点があり、親テーブルの Person
にはそれぞれのカラムがどのレコードの種類に対応するのか区別する手段がありません。言い換えると、Professor
や Student
オブジェクトのみを取得することができません。以下のコードではすべて(Student
と Professor
の両方)のレコードを含む Doctrine_Collection
が返ってきます。
$professors = Doctrine_Core::getTable('Professor')->findAll();
単一テーブル継承は指定したオブジェクトの型でハイドレーションされるだけなのであまり実用性はありません。ですのでこの手法ついての説明はこれくらいにしておきます。
カラム集約テーブル継承
~カラム集約テーブル継承~は単一テーブル継承と似たような手法ですが、type
というレコードの型を特定するためのカラムが存在する点が異なります。レコードがデータベースに保存された際、type
にクラスを特定するための値が入ります:
---
Person:
columns:
first_name:
type: string(50)
notnull: true
last_name:
type: string(50)
notnull: true
Professor:
inheritance:
type: column_aggregation
extends: Person
keyField: type
keyValue: 1
columns:
specialty:
type: string(50)
notnull: true
Student:
inheritance:
type: column_aggregation
extends: Person
keyField: type
keyValue: 2
columns:
graduation:
type: string(20)
notnull: true
promotion:
type: integer(4)
notnull: true
上記の YAML スキーマでは inheritance
の type
という属性が ~column_aggregation
~ になっており、さらに2つの属性が追加されています。1つめの属性は keyField
で、各レコードの型情報を保持するために追加されるカラムの名前です。今回 keyField
には type
というカラム名を設定しましたが、keyField
が指定されなかった場合にもこの名前が使われます。 2つめの属性にはレコードが Professor
か Student
のどちらにあたるのかを特定するための値を指定します。
カラム集約継承はテーブル継承において有効な手法で、単一のテーブル(Person
)に type
フィールドを含むすべてのフィールドを定義します。したがって複数のテーブルを作って SQL で JOIN を行う必要はありません。下記はテーブルに問い合わせた際にどの型のオブジェクトが返ってくるかの例になります:
// Professor オブジェクトの Doctrine_Collection を返す $professors = Doctrine_Core::getTable('Professor')->findAll(); // Student オブジェクト の Doctrine_Collection を返す $students = Doctrine_Core::getTable('Student')->findAll(); // Professor オブジェクトを返す $professor = Doctrine_Core::getTable('Professor')->findOneBySpeciality('physics'); // Student オブジェクトを返す $student = Doctrine_Core::getTable('Student')->find(42); // Student オブジェクトを返す $student = Doctrine_Core::getTable('Person')->findOneByIdAndType(array(42, 2));
サブクラス (Professor
、Student
) を通じて情報を取得する際、Doctrine は対応する type
カラムの値を自動的に SQL の WHERE
句に対して指定します。
しかし、カラム集約にはとある状況においていくつか欠点があります。まずカラム集約では子テーブルのフィールドを必須
にすることができません。Person
テーブルのフィールド数次第では空の値だらけのレコードが作られる可能性もあります。
2 つめの欠点はたくさんの子テーブルやフィールドが関連づけられることです。もし、フィールドをたくさん含んだ子テーブルがいくつもあった場合、最終的に親テーブルは大量のカラムで構成されることになります。そうなるとテーブルの管理が大変になるでしょう。
具象テーブル継承
~具象テーブル継承~はカラム集約継承からパフォーマンスやメンテナンス性においてより歩み寄った手法です。 この手法ではまさに、子クラスごとに独立したテーブルを作成します。各テーブルは共通のカラムとそれぞれのモデルのカラムをすべて含んだ状態で作成されます。
---
Person:
columns:
first_name:
type: string(50)
notnull: true
last_name:
type: string(50)
notnull: true
Professor:
inheritance:
type: concrete
extends: Person
columns:
specialty:
type: string(50)
notnull: true
Student:
inheritance:
type: concrete
extends: Person
columns:
graduation:
type: string(20)
notnull: true
promotion:
type: integer(4)
notnull: true
このスキーマの場合、Professor
テーブルには id
、first_name
、last_name
、そして specialty
フィールドが含まれます。
具象テーブル継承には先ほどの手法に比べていくつかの利点があります。まず1つめは各テーブルが分離され、それぞれが独立して作成されることです。また不要な空フィールドや type
カラムも含まれません。その結果、それぞれのテーブルは軽くなります。
この手法ではテーブルを結合して情報を共有するのではなく、それぞれの子テーブルにフィールドを重複して定義することにより、パフォーマンスとスケーラビリティの向上につなげています。
具象テーブル継承の2つの欠点は、共通フィールドが重複している(ただしパフォーマンスの点では利点につながる) ことと親テーブルが常に空になることです。たしかに Doctrine は使われることのないであろう Person
テーブルを作成します。すべての情報は子テーブルに保存されるので、このテーブルに問い合わせることはないでしょう。
ここまでで 3 種類の Doctrine のテーブル継承の手法をご紹介してきましたが、symfony と組み合わせた実例はまだお見せしていません。次のパートでは symfony 1.3 においての Doctrine の~テーブル継承~の活用方法、特にフォームフレームワークでの活用について説明していきます。
Symfony とテーブル継承の統合
symfony 1.3 より前までは Doctrine の~テーブル継承~は完全にサポートされておらず、フォームやフィルタクラスまでは継承されませんでした。したがってテーブル継承を使いたい場合はフォームやフィルタに修正を加える必要があり、継承の動作を実現するためにたくさんのメソッドのオーバーライドを余儀なくさせられました。
コミュニティのフィードバックによるおかげで、symfony 1.3 ではフォームとフィルタが改善され、Doctrine のテーブル継承がサポートされています。
この章での目的は Doctrine のテーブル継承の使い方と、モデルやフォーム、フィルタ、admin ジェネレータと組み合わせてさまざまな状況での活用方法を説明することです。実例をあげて、symfony での継承の働きについてよりわかりやすく、やりたいことが簡単に実現できるように説明していきましょう。
実例の紹介
この章の至るところで、モデル
、フォーム
、フィルタ
、そして adminジェネレータ
における Doctrine のテーブル継承のさまざまな活用方法についての実例をお見せします。
最初にご紹介する事例は、フランスでよく知られる Sensio 社で開発されたアプリケーションによるものです。いくつもの同形式なデータ集合を管理する際、メソッドやプロパティを共有し重複をさけるために、Doctrine のテーブル継承を用いて対処した例をご紹介します。
2つめの事例では、~具象継承~とフォームを組み合わせて活用し、シンプルなモデルを作成してファイルの管理を行う例をご紹介します。
最後に、3つめの事例としてアドミンジェネレータとテーブル継承を組み合わせた活用方法の実演と、それらをより柔軟に扱う方法の説明を行います。
モデルレイヤーにおけるテーブル継承
オブジェクト指向プログラミングの概念と~テーブル継承~の情報共有のしくみは同じもので、モデルが生成された段階でメソッドやプロパティの共有が可能になります。Doctrine のテーブル継承はアクション間でのコードの共有やオーバーライドを扱うためのよりよい方法でもあります。ではこのしくみについて実例を交えて説明していきましょう。
問題
多くの Web アプリケーションを機能させるためには「~リファレンシャル~」が必要です。多くの場合リファレンシャルは、少なくとも2つのフィールド (id
と label
など) を含むシンプルなテーブルからなる小さなデータ集合のことを指します。ときとして、リファレンシャルは is_active
や is_default
といったカラムを含むこともあります。今回のケースは Sencio 社で最近顧客向けに作られたアプリケーションのお話です。
顧客の要望によると、多数のデータ集合をアプリケーションの主要なビューとフォームにて管理をしたいとのことです。これらすべてのリファレンシャルは、id
、label
、position
、is_default
をもつ同じ内容のテーブルで構成されています。position
フィールドはドラッグアンドドロップによって Ajax で並び順を変更する機能に使われます。is_default
は HTML の選択フィールドにてデフォルトで選択状態になっているかを指し示すフラグです。
解決策
2つ以上のテーブルを管理する際に、テーブル継承は最善な解決策の1つです。上記の問題は~具象継承~を用いて1つのクラスでメソッドを共有する方法がしっくりくるでしょう。下記にこの問題をあらわすスキーマがあります。
---
sfReferential:
columns:
id:
type: integer(2)
notnull: true
label:
type: string(45)
notnull: true
position:
type: integer(2)
notnull: true
is_default:
type: boolean
notnull: true
default: false
sfReferentialContractType:
inheritance:
type: concrete
extends: sfReferential
sfReferentialProductType:
inheritance:
type: concrete
extends: sfReferential
具象テーブル継承はこれで完全に動作し、テーブルは分離され、position
フィールドはそれぞれのテーブルの中で共有されます。
モデルをビルドして、どうなっているかを見てみましょう。Doctrine と symfony はデータベース上に3つのテーブルと、lib/model/doctrine
ディレクトリ内に6つのクラスを作りました。
sfReferential
:sf_referential
レコードを管理します。sfReferentialTable
:sf_referential
テーブルを管理します。sfReferentialContractType
:sf_referential_contract_type
レコードを管理します。sfReferentialContractTypeTable
:sf_referential_contract_type
テーブルを管理します。sfReferentialProductType
:sf_referential_product_type
レコードを管理します。sfReferentialProductTypeTable
:sf_referential_product_type
テーブルを管理します。
sfReferentialContractType
と sfReferentialProductType
モデルクラスを見てみると、どちらも sfReferential
クラスを継承していることがわかります。つまり sfReferential
クラスに定義したメソッド (とプロパティ) は2つの子クラスでも共有され、必要であればオーバーライドすることも可能です。
これだけで目的は達成されました。sfReferential
クラスにすべてのリファレンシャルを管理するためのメソッドを記述しましょう:
// lib/model/doctrine/sfReferential.class.php class sfReferential extends BasesfReferential { public function promote() { // レコードを上に移動させる } public function demote() { // レコードを下に移動させる } public function moveToFirstPosition() { // レコードを先頭に移動させる } public function moveToLastPosition() { // レコードを末尾に移動させる } public function moveToPosition($position) { // 指定した位置にレコードを移動させる } public function makeDefault($forceSave = true, $conn = null) { $this->setIsDefault(true); if ($forceSave) { $this->save($conn); } } }
Doctrine の~具象継承~のおかげで、すべてのコードは 1 か所で管理されています。これでこのコードはデバッグや管理、改良、そしてユニットテストがやりやすくなりました。
これがテーブル継承を使った場合の 1 つめの真価です。またこのおかげで下記のような共通アクションを作ることも可能です。sfBaseReferentialActions
はそれぞれのリファレンシャルモデルを管理するための親クラスです。
// lib/actions/sfBaseReferentialActions.class.php class sfBaseReferentialActions extends sfActions { /** * 一覧画面でドラッグアンドドロップからの Ajax リクエストを * 受けとって並び順を変更するアクション * * このアクションは ~sfDoctrineRoute~ からリファレンシャル * オブジェクトを受け取る * * @param sfWebRequest $request */ public function executeMoveToPosition(sfWebRequest $request) { $this->forward404Unless($request->isXmlHttpRequest()); $referential = $this->getRoute()->getObject(); $referential->moveToPosition($request->getParameter('position', 1)); return sfView::NONE; } }
もしテーブル継承を使わなかった場合はどうなっていたでしょうか?コードはリファレンシャルの子クラスごとに重複して作られていたことでしょう。これはいくつものリファレンシャルテーブルを扱うアプリケーションにおいて非常に DRY (Don't Repeat Yourself) ではありません。
フォームレイヤーにおけるテーブル継承
Doctrine のテーブル継承の活用について話を続けましょう。前節ではこの機能が継承したモデル間でメソッドやプロパティを共有するとても実用的な機能であることの実演を行いました。次は symfony がフォームを作成した時の動きを見ていきましょう。
事例となるモデル
下記はファイルを管理するモデルを表しています。ここでの目的は、共通の情報を File
テーブルに、詳細な情報を Video
や PDF
といった子テーブルに格納することです。
---
File:
columns:
filename:
type: string(50)
notnull: true
mime_type:
type: string(50)
notnull: true
description:
type: clob
notnull: true
size:
type: integer(8)
notnull: true
default: 0
Video:
inheritance:
type: concrete
extends: File
columns:
format:
type: string(30)
notnull: true
duration:
type: integer(8)
notnull: true
default: 0
encoding:
type: string(50)
PDF:
tableName: pdf
inheritance:
type: concrete
extends: File
columns:
pages:
type: integer(8)
notnull: true
default: 0
paper_size:
type: string(30)
orientation:
type: enum
default: portrait
values: [portrait, landscape]
is_encrypted:
type: boolean
default: false
notnull: true
PDF
と Video
テーブルは、共通の情報を含む File
テーブルを共有します。Video
モデルは format
(4/3、16/9...) や再生時間を表す duration
といったビデオオブジェクトに関連する情報を含み、もう一方の PDF
モデルはページ数を表す pages
や書字方向を表す orientation
を含みます。ではモデルと対応するフォームをビルドしましょう。
$ php symfony doctrine:build --all
後節ではフォームクラスに新しく用意された setupInheritance()
メソッドを用いたテーブル継承の活用方法を説明します。
setupInheritance() メソッドを理解する
予想どおり、Doctrine は lib/form/doctrine
および lib/form/doctrine/base
ディレクトリ以下に6つのフォームクラスを作ります。
BaseFileForm
BaseVideoForm
-
BasePDFForm
-
FileForm
VideoForm
PDFForm
では Base
フォームクラスを開いて ~setup()
~ メソッドのなかを見てみましょう。symfony 1.3 から新しく ~setupInheritance()
~ メソッドが追加されています。このメソッドはデフォルトでは空っぽです。
ここでもっとも重要なことは、BaseVideoForm
と BasePDFForm
は FileForm
と BaseFileForm
クラスを継承しており、継承構造が保持されることです。つまり、File
クラスを継承しているフォームはメソッドが共有できるということです。
以下のコードでは FileForm
クラスの setupInheritance()
メソッドをオーバーライドして、それぞれの子クラスから効率的に使えるように設定しています。
// lib/form/doctrine/FileForm.class.php class FileForm extends BaseFileForm { protected function setupInheritance() { parent::setupInheritance(); $this->useFields(array('filename', 'description')); $this->widgetSchema['filename'] = new sfWidgetFormInputFile(); $this->validatorSchema['filename'] = new sfValidatorFile(array( 'path' => sfConfig::get('sf_upload_dir') )); } }
setupInheritance()
メソッドは VideoForm
と PDFForm
から呼び出され、filename
と description
を除くすべてのフィールドを削除します。filename
フィールドのウィジェットはファイルウィジェットに変えられ、対応するバリデータは ~sfValidatorFile
~ バリデータに変更されています。これでファイルのアップロードとサーバーへの保存が可能になりました。
ファイルの MIME タイプとサイズの設定
これですべてのフォームが準備できました。しかしこれらを使えるようにする前にもう1点設定が必要です。mime_type
と size
フィールドは FileForm
オブジェクトから削除したので、これをプログラムのほうで設定する必要があります。この設定はFile
クラスに generateFilenameFilename()
メソッドを作成して対応するのがよいでしょう。
// lib/model/doctrine/File.class.php class File extends BaseFile { /** * このファイルオブジェクトのファイル名を生成する * * @param sfValidatedFile $file * @return string */ public function generateFilenameFilename(sfValidatedFile $file) { $this->setMimeType($file->getType()); $this->setSize($file->getSize()); return $file->generateFilename(); } }
このメソッドは本来ファイルを保存する際のファイル名を指定するためのものです。ここではデフォルトの自動生成されたファイル名をそのまま返すようにしていますが、その際に第1引数として渡された ~sfValidatorFile
~ オブジェクトから mime_type
と size
をとってきてこっそりと設定しています。
symfony 1.3 では Doctrine のテーブル継承を完全にサポートしているので、継承した値も含めてフォームの保存が可能です。ネイティブにサポートされているため、ほんの少しの変更でフォームをパワフルで機能的にすることができます。
上記の例は継承によって広い範囲を簡単に改良することができました。たとえば、VideoForm
や PDFForm
クラスの filename
のバリデータを、sfValidatorVideo
や sfValidatorPDF
などのより特化したバリデータを作ってオーバーライドすることも可能です。
フィルタレイヤーにおけるテーブル継承
フィルタもフォームと同じものなので、親のフォームフィルタからメソッドやプロパティが継承されます。つまり VideoFormFilter
や PDFFormFilter
は FileFormFilter
オブジェクトを継承し、~setupInheritance()
~ を使ってカスタマイズできます。
こちらも同様に、VideoFormFilter
と PDFFormFilter
は FileFormFilter
にあるメソッドを共有します。
アドミンジェネレータレイヤーにおけるテーブル継承
ここからはテーブル継承とアドミンジェネレータの新機能のひとつである、アクションベースクラス定義についてみていきましょう。アドミンジェネレータは symfony 1.0 からもっとも改良のくわえられた機能のひとつです。
2008年11月、symfony 1.2 に新しいアドミンジェネレータがバンドルされることを発表しました。このツールには CRUD、一覧画面でのフィルタリングやページング、一括削除などのさまざまな機能を備えています。admin ジェネレータはすべての開発者にとって、簡単で高速にアプリケーションのバックエンドを作成・カスタマイズできるツールです。
実例紹介
この章の最終パートでの目的は、Doctrine のテーブル継承と admin ジェネレータを組み合わせた活用方法を説明することです。これを達成するために、シンプルなバックエンド上に、ソート/優先づけされた 2 つのテーブルを管理するものを構築しましょう。
symfony はいかなるときでも車輪の再発明は行わない主義なので、Doctrine のモデルには csDoctrineActAsSortablePlugin を使っていきましょう。これはオブジェクト間のソートに必要とされるすべての API を提供します。~csDoctrineActAsSortablePlugin
~ は symfony 界隈でもっとも活発な企業の1つである CentreSource 社が開発とメンテナンスを行っています。
今回使うモデルはとてもシンプルです。sfItem
、sfTodoItem
、sfShoppingItem
の3つのモデルクラスがあり、これで TODO リストと買い物リストを管理します。それぞれのリストはソート/優先づけが可能です。
---
sfItem:
actAs: [Timestampable]
columns:
name:
type: string(50)
notnull: true
sfTodoItem:
actAs: [Sortable]
inheritance:
type: concrete
extends: sfItem
columns:
priority:
type: string(20)
notnull: true
default: minor
assigned_to:
type: string(30)
notnull: true
default: me
sfShoppingItem:
actAs: [Sortable]
inheritance:
type: concrete
extends: sfItem
columns:
quantity:
type: integer(3)
notnull: true
default: 1
上記のスキーマはモデルを3つに分割することを表しています。2つの子クラス (sfTodoItem
、sfShoppingItem
) は Sortable
と Timestampable
ビヘイビアを使います。Sortable
ビヘイビアは csDoctrineActAsSortablePlugin
に含まれており、それぞれのテーブルに position
カラムを追加します。それぞれのクラスは sfItem
を継承しており、このクラスには id
と name
カラムが含まれています。
バックエンドのなかでいくつかテストを行うためにフィクスチャを追加しましょう。データフィクスチャはいつもどおり、プロジェクトの data/fixtures.yml
にあります。
---
sfTodoItem:
sfTodoItem_1:
name: "Write a new symfony book"
priority: "medium"
assigned_to: "Fabien Potencier"
sfTodoItem_2:
name: "Release Doctrine 2.0"
priority: "minor"
assigned_to: "Jonathan Wage"
sfTodoItem_3:
name: "Release symfony 1.4"
priority: "major"
assigned_to: "Kris Wallsmith"
sfTodoItem_4:
name: "Document Lime 2 Core API"
priority: "medium"
assigned_to: "Bernard Schussek"
sfShoppingItem:
sfShoppingItem_1:
name: "Apple MacBook Pro 15.4 inches"
quantity: 3
sfShoppingItem_2:
name: "External Hard Drive 320 GB"
quantity: 5
sfShoppingItem_3:
name: "USB Keyboards"
quantity: 2
sfShoppingItem_4:
name: "Laser Printer"
quantity: 1
csDoctrineActAsSortablePlugin
プラグインをインストールして、モデルの準備ができたら、config/ProjectConfiguration.class.php
にある ~ProjectConfiguration
~ を書きかえてプラグインを有効化しましょう:
class ProjectConfiguration extends sfProjectConfiguration { public function setup() { $this->enablePlugins(array( 'sfDoctrinePlugin', 'csDoctrineActAsSortablePlugin' )); } }
次にデータベース、モデル、フォーム、フィルタを作成し、フィクスチャを読み込ませましょう。~doctrine:build
~ タスクを使えば一発で行えます:
$ php symfony doctrine:build --all --no-confirmation
この処理が完了したらキャッシュのクリアと、プラグインのアセットへのリンクを web
ディレクトリに作らなくてはなりません。
$ php symfony cache:clear
$ php symfony plugin:publish-assets
後節ではアドミンジェネレータを用いてバックエンドにモジュールを作る方法と、新機能であるアクションベースクラス機能の活用方法を説明します。
バックエンドのセットアップ
この節ではバックエンドのアプリケーションと、買い物と TODO の一覧を管理するモジュールのセットアップに必要な手順を説明していきます。まずは backend
アプリケーションを作りましょう:
$ php symfony generate:app backend
アドミンジェネレータはとてもすばらしいツールですが、symfony 1.3 より前までは作られたモジュール間でコードの重複を避ける手立てがありませんでした。現在は改善されており、~doctrine:generate-admin
~ タスクに ~--actions-base-class
~ オプションが追加されアクションの親クラスを指定できるようになっています。
2つのモジュールは似たような内容なので、共通のコードは重複しないようにすべきです。これらのモジュールの親となるアクションクラスを lib/actions
ディレクトリに作って、共通のコードはここに書いていきましょう:
// lib/actions/sfSortableModuleActions.class.php class sfSortableModuleActions extends sfActions { }
sfSortableModuleActions
を作り、キャッシュをクリアしたら、backend アプリケーションに2つのモジュールを作ります:
$ php symfony doctrine:generate-admin --module=shopping --actions-base-class=sfSortableModuleActions backend sfShoppingItem
$ php symfony doctrine:generate-admin --module=todo --actions-base-class=sfSortableModuleActions backend sfTodoItem
アドミンジェネレータはモジュールに対して2つのディレクトリを作ります。1つはもちろん apps/backend/modules
ディレクトリです。しかし、大部分のモジュールのファイルは cache/backend/dev/modules
ディレクトリに作られます。これらのファイルはモジュールのコンフィギュレーションが変更されたりキャッシュが削除された際に再構築されます。 アドミンジェネレータはモジュールに対して2つのディレクトリを作ります。1つはもちろん apps/backend/modules
ディレクトリです。しかし、モジュールのファイルの大半は cache/backend/dev/modules
ディレクトリに作られます。これらのファイルはモジュールのコンフィギュレーションが変更されたりキャッシュが削除された際に再構築されます。
キャッシュファイルの中身を見ることは、symfony と admin ジェネレータの挙動を知るよい方法です。
sfSortableModuleActions
の子クラスもcache/backend/dev/modules/autoShopping/actions/actions.class.php
とcache/backend/dev/modules/autoTodo/actions/actions.class.php
に作られています。デフォルトではこれらは ~sfActions
~ を直接継承します。
これで 2 つのモジュールを扱うための準備が整いました。この章の目的ではありませんが、自動生成されたモジュールのコンフィギュレーションを探ってみましょう。symfony リファレンスの中にあるドキュメントがとても参考になります。
アイテムの並び順を変更する
前節では同じアクションクラスを継承する2つのモジュールのセットアップを行いました。次の目的はそれぞれの一覧でオブジェクトをソートするためのアクションを作ることです。これは先ほどインストールしたプラグインの API を使えば簡単に作れます。
まずレコードを上下させるためのルートを新しく作りましょう。アドミンジェネレータは ~sfDoctrineRouteCollection
~ を使っていますので、それぞれのモジュールの config/generator.yml
にて簡単に追加できます。
todo
モジュールにも同じ変更を加えましょう:
この2つのYAMLファイルは shopping
と todo
モジュールのコンフィギュレーションに相当します。やりたいことはこれで設定できました。まず一覧のビューは position
カラムの昇順
にソートされます。次にパジネーションを避けるために 1 ページに表示するアイテムの最大数を 100 に増やしました。
そして、一覧には position
、name
、priority
、assigned_to
、quantity
のみを表示するようにしました。さらにそれぞれのモジュールに moveUp
と moveDown
アクションを追加しました。最終的には以下のスクリーンショットのように表示されているはずです:
2 つのアクションはまだ宣言されただけで何も手をつけてません。後述のように、共通の sfSortableModuleActions
アクションクラスにアクションを作る必要があります。ここでは ~csDoctrineActAsSortablePlugin
~ プラグインの提供する2つの便利なメソッド、promote()
と demote()
メソッドを使って、moveUp
と moveDown
アクションを実装します。
// lib/actions/sfSortableModuleActions.class.php class sfSortableModuleActions extends sfActions { /** * アイテムを上に移動する * * @param sfWebRequest $request */ public function executeMoveUp(sfWebRequest $request) { $this->item = $this->getRoute()->getObject(); $this->item->promote(); $this->redirect($this->getModuleName()); } /** * アイテムを下に移動する * * @param sfWebRequest $request */ public function executeMoveDown(sfWebRequest $request) { $this->item = $this->getRoute()->getObject(); $this->item->demote(); $this->redirect($this->getModuleName()); } }
これらの共通のアクションにより、TODO リストと買い物リストは共にソート可能になりました。その上、メンテナンスや機能テストが行いやすくなりました。
特別な贈り物: ユーザーエクスペリエンスを改善する
これで終わらせる前に、ユーザーエクスペリエンスを改善していきましょう。リンクをクリックしてレコードを上下させるのは、直感的とはいえません。よりよい方法は Ajax で動作させることです。今回は jQuery の ~Table Drag and Drop
~ プラグインを使って、HTML のテーブルをドラッグアンドドロップして行えるようにしましょう。テーブルの各行が移動した際に、毎回 Ajax を呼び出すようにします。
まずは jQuery を入手して web/js
ディレクトリ以下にインストールし、同じようにして Table Drag and Drop
プラグインのインストールも行います。このプラグインのソースコードは Google Code で管理されています。
これらを動作させるために、それぞれの一覧のビューに小さな JavaScript のスニペットと、各テーブルに id
属性を追加します。admin ジェネレータのテンプレートとパーシャルはすべてオーバーライド可能で、cache ディレクトリ内にある _list.php
を各モジュールにコピーしましょう。
しかし、単純に templates/
ディレクトリに _list.php
をコピーしてくることは DRY ではありません。ここでは cache/backend/dev/modules/autoShopping/templates/_list.php
を _table.php
という名前に変えて apps/backend/templates/
ディレクトリにコピーしましょう。コピーしてきたファイルを以下のように置き換えます:
<div class="sf_admin_list"> <?php if (!$pager->getNbResults()): ?> <p><?php echo __('No result', array(), 'sf_admin') ?></p> <?php else: ?> <table cellspacing="0" id="sf_item_table"> <thead> <tr> <th id="sf_admin_list_batch_actions"><input id="sf_admin_list_batch_checkbox" type="checkbox" onclick="checkAll();" /></th> <?php include_partial( $sf_request->getParameter('module').'/list_th_tabular', array('sort' => $sort) ) ?> <th id="sf_admin_list_th_actions"> <?php echo __('Actions', array(), 'sf_admin') ?> </th> </tr> </thead> <tfoot> <tr> <th colspan="<?php echo $colspan ?>"> <?php if ($pager->haveToPaginate()): ?> <?php include_partial( $sf_request->getParameter('module').'/pagination', array('pager' => $pager) ) ?> <?php endif; ?> <?php echo format_number_choice( '[0] no result|[1] 1 result|(1,+Inf] %1% results', array('%1%' => $pager->getNbResults()), $pager->getNbResults(), 'sf_admin' ) ?> <?php if ($pager->haveToPaginate()): ?> <?php echo __('(page %%page%%/%%nb_pages%%)', array( '%%page%%' => $pager->getPage(), '%%nb_pages%%' => $pager->getLastPage()), 'sf_admin' ) ?> <?php endif; ?> </th> </tr> </tfoot> <tbody> <?php foreach ($pager->getResults() as $i => $item): ?> <?php $odd = fmod(++$i, 2) ? 'odd' : 'even' ?> <tr class="sf_admin_row <?php echo $odd ?>"> <?php include_partial( $sf_request->getParameter('module').'/list_td_batch_actions', array( 'sf_'. $sf_request->getParameter('module') .'_item' => $item, 'helper' => $helper )) ?> <?php include_partial( $sf_request->getParameter('module').'/list_td_tabular', array( 'sf_'. $sf_request->getParameter('module') .'_item' => $item )) ?> <?php include_partial( $sf_request->getParameter('module').'/list_td_actions', array( 'sf_'. $sf_request->getParameter('module') .'_item' => $item, 'helper' => $helper )) ?> </tr> <?php endforeach; ?> </tbody> </table> <?php endif; ?> </div> <script type="text/javascript"> /* <![CDATA[ */ function checkAll() { var boxes = document.getElementsByTagName('input'); for (var index = 0; index < boxes.length; index++) { box = boxes[index]; if ( box.type == 'checkbox' && box.className == 'sf_admin_batch_checkbox' ) box.checked = document.getElementById('sf_admin_list_batch_checkbox').checked } return true; } /* ]]> */ </script>
そうしたら、各モジュールの templates
ディレクトリに _list.php
を作り、それぞれ以下のように記述します:
// apps/backend/modules/shopping/templates/_list.php <?php include_partial('global/table', array( 'pager' => $pager, 'helper' => $helper, 'sort' => $sort, 'colspan' => 5 )) ?>
// apps/backend/modules/shopping/templates/_list.php
<?php include_partial('global/table', array(
'pager' => $pager,
'helper' => $helper,
'sort' => $sort,
'colspan' => 8
)) ?>
並び順を変更するためには、Ajax からのリクエストを受け付けるアクションを新たに実装する必要があります。executeMove()
アクションを sfSortableModuleActions
アクションクラスに作りましょう。
// lib/actions/sfSortableModuleActions.class.php class sfSortableModuleActions extends sfActions { /** * Ajax リクエストを受けてアイテムの並び順の変更を行う * * @param sfWebRequest $request */ public function executeMove(sfWebRequest $request) { $this->forward404Unless($request->isXmlHttpRequest()); $this->forward404Unless($item = Doctrine_Core::getTable($this->configuration->getModel())->find($request->getParameter('id'))); $item->moveToPosition((int) $request->getParameter('rank', 1)); return sfView::NONE; } }
executeMove()
アクションはコンフィギュレーションオブジェクトから getModel()
メソッドを呼び出しています。このメソッドを todoGeneratorConfiguration
と shoppingGeneratorConfiguration
クラスに対して以下のように追加しましょう:
// apps/backend/modules/shopping/lib/shoppingGeneratorConfiguration.class.php class shoppingGeneratorConfiguration extends BaseShoppingGeneratorConfiguration { public function getModel() { return 'sfShoppingItem'; } }
// apps/backend/modules/todo/lib/todoGeneratorConfiguration.class.php
class todoGeneratorConfiguration extends BaseTodoGeneratorConfiguration
{
public function getModel()
{
return 'sfTodoItem';
}
}
やるべきことは残すところ1つです。テーブルの各行をドラッグアンドドロップ可能にすることと、ドロップした際に Ajax を動作させることです。そのためには各move
アクションに対応するルートが必要になります。では apps/backend/config/routing.yml
ファイルを開いて以下のように2つのルートを追加しましょう:
<?php foreach (array('shopping', 'todo') as $module) : ?> <?php echo $module ?>_move: class: sfRequestRoute url: /<?php echo $module ?>/move param: module: "<?php echo $module ?>" action: move requirements: sf_method: [get] <?php endforeach ?>
ここでは重複を避けるために、foreach
文にそれぞれのモジュール名を渡してルートを作っています。あとはドラッグアンドドロップと Ajax リクエストを動作させるために apps/backend/templates/_table.php
に JavaScript を記述しましょう:
<script type="text/javascript" charset="utf-8"> $().ready(function() { $("#sf_item_table").tableDnD({ onDrop: function(table, row) { var rows = table.tBodies[0].rows; // 移動したアイテムのIDを取得 var movedId = $(row).find('td input:checkbox').val(); // 新しい順番の計算 var pos = 1; for (var i = 0; i<rows.length; i++) { var cells = rows[i].childNodes; // Perform the ajax request for the new position if (movedId == $(cells[1]).find('input:checkbox').val()) { $.ajax({ url:"<?php echo url_for('@'. $sf_request->getParameter('module').'_move') ?>?id="+ movedId +"&rank="+ pos, type:"GET" }); break; } pos++; } }, }); }); </script>
これで HTML のテーブルは完全に機能を満たしました。各行はドラッグアンドドロップが可能になり、Ajax による並び順の更新が行えます。わずかな修正によりバックエンドのユーザビリティは改善され、ユーザーエクスペリエンスを向上することができました。admin ジェネレータは機能拡張やカスタマイズをするための十分な柔軟性を備え、Doctrine のテーブル継承も完全に動作しています。
もう使われない moveUp
と moveDown
アクションは削除したり、お好きなようにカスタマイズして、このモジュールを思うがままに改良してみましょう。
最後に
この章では、コードの構成の改善や開発速度の向上に非常に役立つ Doctrine の~テーブル継承~機能についてご紹介してきました。この機能は symfony にも十分に統合されています。 ぜひこれらの機能を活用して、コードの改善や効率化を行っていきましょう。
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